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【中小企業の無期転換ルール】「5年超え契約社員を無期雇用に」と言われたら、まず確認すべきこと

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2026.09.19
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この記事の監修

社会保険労務士 行政書士 公認 不動産コンサルティングマスター

松原 元

平成23年12月に社会保険労務士登録、平成25年5月に行政書士登録し、ダブルライセンスで労務・社会保険関係から建設業、宅建業、産廃等の 許認可の取得・維持までをワンストップで対応可能。資金繰りのサポートも行っており、200件以上の融資支援実績を持つ。

目次

5年を超えた有期契約社員の無期転換、「急がば回れ」で事実確認から始めませんか?

「勤続5年を超えた契約社員から『無期雇用にしてほしい』と言われた」

従業員30名までの中小企業を経営されている方、あるいは人事・労務業務を兼任されているご担当者様であれば、このような状況に直面し、焦りを感じることもあるかもしれません。会社の希望としては「それなら無期雇用の契約書を作ればいいのではないか」と考えたくなる場面ではないでしょうか。

しかし、当事務所では、このようなご相談をいただいた際に、いきなり新しい契約書を作成することは推奨しておりません。なぜなら、無期転換に関する法的な判断は、単純な勤続年数だけで決まるものではなく、個別の契約履歴や具体的な申出の内容など、多岐にわたる事実関係の正確な把握が不可欠だからです。

本記事では、無期転換ルールで中小企業が陥りがちな落とし穴を避け、法的なリスクを最小限に抑えつつ、現実的な対応を進めるための手順を解説いたします。当事務所は、中小・零細企業の経営支援を本業としており、コストと工数のかけ過ぎを避けながら、経営者様ご自身や少人数の事務担当者様でも実行可能な具体的なアドバイスを心がけております。まずは「現在どのような法的状態にあるのか」を整理することから始めましょう。

この記事でわかること

  1. 無期転換ルールで中小企業経営者が陥りがちな落とし穴
  2. 無期転換ルールの基本|労働契約法第18条のポイント
  3. 当事務所が実践する「無期転換」対応の事実整理ステップ
  4. 中小企業経営者が押さえるべき実務上のポイントとコスト最小化の視点
  5. Q&A:中小企業経営者からよくある質問
  6. まとめ

5年を超えた有期契約社員の無期転換」で中小企業経営者が陥りがちな落とし穴

「入社から6年が経っているので、もう正社員になれるはずですよね」

このような発言を聞いたとき、多くの経営者様が「無期雇用そのものには反対しないが、正社員と同じ待遇にするつもりはない。契約書の期間だけ無期限に変えればいいだろう」と考えるかもしれません。

しかし、当事務所にご相談いただくケースでは、以下のような状況が頻繁に発生しています。

  • 更新日が目前に迫っているにもかかわらず、過去の雇用契約書や労働条件通知書がすべて揃っていない。
  • 対象者の契約履歴を詳しく確認すると、契約と契約の間に数ヶ月の空白期間があることが判明した。
  • 就業規則には有期契約社員に関する規定はあるものの、無期転換後の社員区分や労働条件について明確な規定が存在しない。
  • 無期転換と正社員化が同じ意味だと誤解しており、後になって従業員との間で「正社員になると思っていた」「そんな説明はしていない」といった認識の齟齬が生じやすい。

このような状況で「とりあえず来週までに契約書を作ってください」と急いで書類作成だけを進めてしまうことは、かえって将来的な労務トラブルのリスクを高めることになりかねません。問題の本質は、「無期雇用契約書をどう書くか」ではなく、「現在、この労働者について無期転換申込権が発生しているのか」を正確に判断することにあります。

無期転換ルールの基本|労働契約法第18条のポイント

まず、無期転換ルールの基本的な考え方を確認しましょう。これは、労働契約法第18条に定められています。

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約の契約期間の通算期間(次項において「通算契約期間」という。)が厚生労働省令で定める期間を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換の申込みをしたときは、使用者に対し、当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件(当該有期労働契約により期間の定めがあることにより生じる労働条件を除く。)とする。ただし、当該労働者と使用者との間で、当該申込み後の労働条件について別段の定めをすることを妨げない。

引用:労働契約法 第18条 | e-Gov法令検索

この条文が示す通り、無期転換ルールは単純に「5年間勤務したら正社員になる」という制度ではありません。

  1. 通算期間が5年を超えること:有期労働契約の契約期間が、同一の使用者との間で通算して5年を超える場合に発生します。
  2. 労働者からの申込みが必要:通算期間が5年を超えた後、労働者が使用者に対して無期転換の申込みをすることで、期間の定めのない労働契約へと転換します。会社が自動的に無期契約にする義務が生じるわけではありません。
  3. 「正社員化」ではない:無期転換は「期間の定めのない労働契約への転換」であり、必ずしも「正社員化」を意味するものではありません。正社員は通常、給与体系、賞与、退職金、昇進、異動の範囲など、無期契約社員とは異なる処遇が設定されていることが多いです。

これらの点を踏まえずに、安易に「無期雇用」の契約書だけを作成してしまうと、後になって「正社員だと思っていた」という従業員側との認識の相違から、トラブルに発展する可能性があります。

当事務所が実践する「無期転換」対応の事実整理ステップ

では、具体的にどのように事実を整理していくべきでしょうか。当事務所では、以下のようなステップで確認を進めてまいります。

ステップ1:契約履歴の徹底的な確認

「入社から6年経っています」という情報だけでは不十分です。各契約期間を時系列で、漏れなく確認することが重要です。この作業は、経営者様ご自身や少人数の事務担当者様でも、根気強く取り組むことで可能です。

  • 契約履歴表の作成:対象者ごとに、最初の契約開始日から現在までのすべての契約期間を、日付とともに一覧化します。例えば、
    • 20XX年4月1日~20XX年3月31日
    • 20XX年4月1日~20XX年3月31日
    • 20XX年4月1日~20XX年3月31日

    といった形で、一本ずつ並べていきます。

  • 確認すべき項目:具体的には、以下の項目を一つずつ確認します。
    • 最初の契約開始日と各契約の終了日
    • 各契約の更新日および更新回数
    • 契約と契約の間に「契約のない期間(空白期間)」があったか、その期間はどの程度か
    • 更新時の労働条件(賃金、勤務時間など)
    • 契約更新上限の有無やその内容
  • 不足資料の復元:過去の契約書や労働条件通知書が揃っていない場合でも諦める必要はありません。以下の客観的な資料から、勤務実態や契約経過を復元できる可能性があります。
    • 賃金台帳
    • 給与データ
    • 人事管理データ
    • 雇用保険被保険者証の取得・喪失記録などの雇用保険関係資料
    • 社会保険関係資料(健康保険・厚生年金保険の記録)

    これらの資料は、会社に保管されているはずですので、まずは手元にあるものを丁寧に確認してみてください。

ステップ2:本人からの「無期転換申込み」の状況確認

無期転換は労働者からの申込みによって成立します。今回のように「無期雇用にしてほしい」という発言があった場合、その申込みが有効であるかを判断するためには、以下の点を確認し、記録を整理することが大切です。

  • 申込みの時期:いつ発言があったか。
  • 申込みの相手:誰に対して(例:代表者、部門長、事務担当者)伝えたのか。
  • 申込みの内容:どのような言葉で伝えたのか。

「正式な申込書が提出されていないから何も起きていない」と簡単に判断することはできません。口頭での申込みであっても、その内容や経緯によっては有効な申込みとみなされる場合があります。そのため、発言内容と経緯を可能な限り具体的に記録しておくことが、後のトラブル回避につながります。

ステップ3:無期転換後の労働条件と社内規程の整合性確認

現在の事実関係と制度上の状態を整理した結果として、新しい契約書を作成します。この際、単に期間の定めをなくすだけでなく、無期転換後の労働条件が会社の既存規程と整合しているかを丁寧に確認する必要があります。

  • 既存の社内規程との整合性
    • 現在適用されている就業規則や賃金規程において、「契約社員」や「無期転換後の社員」がどのように位置づけられているか。
    • 正社員と無期契約社員との間で、職務内容、責任の範囲、配置転換の有無、労働時間、賃金(基本給、手当)、賞与、退職金などの処遇にどのような違いがあるか。
    • これらの違いが、不合理な労働条件の相違として問題とならないか(労働契約法第20条)。
  • 2024年4月以降の労働条件明示ルール:2024年4月1日以降、労働条件明示のルールが改正されており、有期労働契約の更新時には、以下の事項を明示する必要があります。
    • 無期転換申込機会(無期転換申込権が発生する更新であること)
    • 無期転換後の労働条件

    この明示は、労働基準法施行規則第5条の改正によって義務付けられています。新しい契約書を作成する際には、これらの要件も満たす必要があります。

    (労働条件の明示)
    第五条 使用者が労働契約を締結する際に労働者に対して明示しなければならない労働条件は、法第十五条第一項に規定するもののほか、次に掲げるものとする。
    (中略)
    六 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(当該労働契約の期間の満了により当該労働契約を更新しない場合があることを含む。)
    七 期間の定めのある労働契約であつて、労働契約法第十八条第一項に規定する有期労働契約であつて同項に規定する通算契約期間(以下この号において「通算契約期間」という。)が五年を超えるものに係る更新以外の更新をする場合には、当該契約期間の満了時までに、当該労働者が同項の申込みをすることにより期間の定めのない労働契約を締結することができる旨。ただし、当該契約期間が満了する日までの間に当該労働者が当該申込みをすることができる機会が明らかにない場合には、この限りでない。
    八 期間の定めのある労働契約であつて、通算契約期間が五年を超えるものに係る更新をする場合には、当該更新後に締結される期間の定めのない労働契約に関する事項

    引用:労働基準法施行規則 第5条 | e-Gov法令検索

中小企業経営者が押さえるべき実務上のポイントとコスト最小化の視点

ここまで見てきた事実整理を踏まえ、中小企業の経営者様が特に注意すべき実務上のポイントと、コストを抑えながら対応を進めるための視点をご紹介します。

「無期転換=正社員化」という誤解を解消する

最も重要な点のひとつは、会社側にも従業員側にも「無期転換=正社員化」という誤解がないかを確認し、必要に応じて丁寧に説明することです。無期転換はあくまで「期間の定めのない労働契約」への転換であり、正社員と同等の処遇を義務付けるものではありません。企業の実情に応じて、無期転換後の新たな雇用区分(例:無期契約社員、専門職社員など)を設け、その労働条件を明確に定めておくことで、従業員の期待と会社の対応の間に齟齬が生じるリスクを軽減できます。

「勤続年数」ではなく「契約履歴」を重視する

「5年、6年働いているから」という単純な勤務年数だけではなく、必ず契約期間を一本ずつ、時系列で確認してください。特に、契約と契約の間に空白期間があった場合、その期間の長さによっては、通算期間がリセットされている可能性もあります。自己判断せずに、正確な契約履歴に基づいて判断することが肝要です。

書類がない場合でも粘り強く事実を復元する

「書類がないから確認できない」で終わらせず、賃金台帳、給与データ、人事管理データ、雇用保険関係資料など、手元にある他の資料から勤務実態や契約経過をできる限り復元する努力をしてください。これは、少人数の体制でも時間をかかけて行うことで、十分に可能です。

他の有期契約社員にも同様の問題がないか確認する

特定の対象者1人の問題として対応するだけでなく、同じ時期に入社した他の有期契約社員にも同様の状況が発生していないかを確認することも重要です。この機会に、以下の情報を一覧化できる管理方法を構築することをお勧めします。

  • 有期契約社員の一覧
  • 各社員の契約開始日と契約終了日
  • 更新回数
  • 無期転換申込権の発生時期の目安

これにより、将来的な無期転換のタイミングを予測し、計画的な対応が可能になります。

無料/低コストで活用できる公的支援

中小企業がこのような労務課題に対応する際には、コストを抑える工夫も重要です。

  • 労働局の無料相談窓口:各地の労働基準監督署や労働局では、労働基準法や労働契約法に関する無料相談を受け付けています。具体的な事例に関する一般的な助言を得られる場合があります。
    参考:各種相談窓口|厚生労働省
  • キャリアアップ助成金(正社員化コース):有期契約労働者を正社員等に転換した場合に助成金が支給される制度があります。無期転換後の正社員化を検討する際には、活用を検討する価値があるかもしれません。ただし、要件が細かく定められているため、事前に詳細を確認することが必要です。
    参考:キャリアアップ助成金|厚生労働省
  • 専門家への初回無料相談:社会保険労務士事務所の中には、初回無料相談を実施しているところもあります。具体的な状況について、まずは専門家の意見を聞くことで、取るべき対応の方向性を明確にできるでしょう。当事務所でも、まずはご状況をお伺いすることから始めておりますので、お気軽にご相談ください。

Q&A:中小企業経営者からよくある質問

Q1: 無期転換の申込みは書面でしかできないのでしょうか?

A1: 原則として、書面である必要はありません。 労働契約法第18条では申込みの方法について特に定めていないため、口頭での申込みでも有効と解釈される場合があります。重要なのは「いつ、誰に対して、どのような内容で」申込みがあったかという事実です。そのため、口頭での申込みがあった場合でも、その内容と経緯を会社側で記録に残しておくことが、後のトラブル回避のために非常に大切になります。

Q2: 無期転換後、正社員と同じ待遇にしなければならないのでしょうか?

A2: 無期転換イコール正社員化ではありませんので、必ずしも正社員と同じ待遇にする必要はありません。 労働契約法第18条では、原則として「現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件(当該有期労働契約により期間の定めがあることにより生じる労働条件を除く。)」が引き継がれるとされています。ただし、労働者と使用者との間で合意があれば、無期転換後の労働条件について別途定めることも可能です。その際、正社員との間で不合理な労働条件の相違がないよう、職務内容、責任の程度、配置転換の範囲などを考慮し、客観的に合理的な説明ができるようにしておくことが重要です。

Q3: 契約期間の途中に数ヶ月間働いていない期間があった場合、通算期間はリセットされますか?

A3: ケースによりますが、常にリセットされるわけではありません。 いわゆる「クーリング期間」として、契約のない期間が6ヶ月以上ある場合、それ以前の有期労働契約の通算期間はリセットされるとされています。しかし、この6ヶ月未満の空白期間であれば、それ以前の契約期間も通算される場合があります。この判断は複雑なため、具体的な契約履歴に基づいて慎重に確認する必要があります。

Q4: 無期転換の申込みを会社が拒否することはできますか?

A4: 原則として、適法な無期転換の申込みがあった場合、会社はこれを拒否することはできません。 労働契約法第18条により、使用者はその申込みを「承諾したものとみなす」と定められているためです。もし申込みがあったにもかかわらず拒否した場合、労働契約法違反となり、従業員から労働審判や訴訟を提起されるリスクがあります。申込みが有効であるかを慎重に判断し、適切な対応を取ることが求められます。

Q5: 無期転換後の就業規則の整備は必要でしょうか?

A5: はい、強く推奨されます。 無期転換後の従業員区分を新たに設ける場合や、既存の就業規則に無期転換後の労働条件に関する規定が不足している場合は、就業規則や賃金規程の改訂が必要です。これにより、無期転換後の労働者の処遇が明確になり、従業員との間の認識の齟齬を防ぎ、公平性を担保することができます。また、2024年4月1日以降は、無期転換後の労働条件を明示する義務が生じていますので、規程の見直しは必須と言えるでしょう。

まとめ

「5年以上働いている契約社員から無期雇用を求められた」というご相談をいただいた際には、まず「現在どういう状態なのか」を正確に把握することが何よりも重要です。

当事務所では、以下の順番で丁寧に事実を整理していくことをお勧めしています。

  1. 契約開始日
  2. 各契約期間
  3. 更新履歴
  4. 空白期間の有無と期間
  5. 無期転換申込権の有無
  6. 本人の申出内容と経緯
  7. 現在の労働条件
  8. 社内規程との整合性

会社がどのような処遇にしたいかを検討することも大切ですが、それは現在の権利関係を確認した後に行うべきです。急いでいる案件ほど、「何を作るか」より先に「現在どういう状態なのか」を客観的な資料に基づいて確認する。これが、無期転換ルールへの現実的かつリスクの少ない対応の第一歩です。

当事務所では、従業員30名までの中小企業の皆様の労務管理をサポートしております。無期転換ルールに関するご不明な点やご不安がございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。貴社の状況に合わせた、具体的なアドバイスを提供させていただきます。

本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

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