【建設業】口頭での追加工事指示は要注意!未払い回避のための証拠保全と書面化手順
construction
- 建設業サポート
- 経理・財務
- 総務の助っ人
- 総務の助っ人ラボ
この記事の監修
社会保険労務士 行政書士 公認 不動産コンサルティングマスター
松原 元
平成23年12月に社会保険労務士登録、平成25年5月に行政書士登録し、ダブルライセンスで労務・社会保険関係から建設業、宅建業、産廃等の 許認可の取得・維持までをワンストップで対応可能。資金繰りのサポートも行っており、200件以上の融資支援実績を持つ。
目次
従業員30名までの中小・零細企業の経営者様にとって、建設現場での「口頭による追加指示」や「出来高払いの未払い」は、日常的に直面しうる深刻な経営課題となりがちです。元請・発注者から「後で清算するから」「まずは動いてほしい」といった口頭のやり取りだけで工事を進め、後に請求が通らない事態に陥るケースは少なくありません。
結論から申し上げますと、建設業法が原則として求めるのは、工事の着工前における「書面による契約変更」です。口頭の指示だけで工事を進めることは、法令が予定する手続きとは異なる状況になり得ます。そのため、口頭指示があったその日から、将来の書面化に備えて「何を」「どのように」記録を残すかが、経営を守る上で非常に重要となります。
当記事では、中小企業の現場で実行可能な、現実的かつ具体的な証拠保全の手順と、元請・発注者への確認の進め方を、当日、3日以内、1週間以内という時系列で解説してまいります。少人数の体制でも対応できるよう、コストと工数のかけ過ぎを避けた実務的なアドバイスを心がけておりますので、ぜひご参考にしていただければ幸いです。
目次
- まず確認:口頭の追加指示は、建設業法上どう扱われるか
- 出来高払いが「払われない」ときに見る契約の条項
- 【当日】現場で残すもの(法律が求める書面の前段階)
- 【翌営業日〜3日】書面化の申し入れと協議の開始
- 【1週間以内】未払い出来高の根拠を揃え、請求準備を進める
- やってはいけない初動(国土交通省ガイドラインの違反事例に対応)
- よくある質問 (Q&A)
- 当事務所にご相談いただく際の準備
まず確認:口頭の追加指示は、建設業法上どう扱われるか
建設工事において口頭での追加指示があった場合、建設業法上は書面での契約変更が原則です。この原則から逸脱した場合、様々なリスクが発生する可能性があります。中小・零細企業の経営者様は、この法的背景を理解しておくことが重要です。
建設業法第19条第1項・第2項が求める「書面」の重要性
建設工事の請負契約においては、その内容を明確にするために、書面による契約締結が法律で義務付けられています。特に、追加工事や仕様変更があった場合も同様に書面での対応が求められます。
建設業法 第19条第1項
建設工事の請負契約の当事者は、建設工事の請負契約を締結する際には、次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。(一部抜粋)建設業法 第19条第2項
建設工事の請負契約の当事者は、前項の規定による書面の記載事項(設計変更、工期の変更等)を変更するときは、原則として、その変更の内容を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。(出典:建設業法 | e-Gov法令検索)
この条文が示す通り、工事内容、請負代金の額、工期などは、契約締結時だけでなく、変更時にも書面で相互に交付することが原則として求められています。口頭指示だけでは、この法律の要件を満たしているとは言い難い状況となり、後々トラブルの原因となる可能性が高まります。
国土交通省ガイドラインが指摘する違反となるケース
国土交通省が公表する建設業法令遵守ガイドラインでは、建設業法第19条第2項の趣旨について、次のような解釈が示されています。
- 追加工事等は、原則として着工前に書面で契約変更を締結すべきであるとされています。
- 口頭のみでの追加指示や、着手後・終了後に初めて書面化することは、第19条第2項に違反する可能性があります。
やむを得ない例外として、災害時の緊急工事などが考えられますが、一般的な追加工事においては、着工前の書面による合意形成が非常に重要視されています。
「不当に低い請負代金」となるリスク(建設業法第19条の3)
追加工事を口頭で指示され、その分の代金が増額されない場合、元請や発注者側が「自己の取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない額で契約する」行為とみなされる可能性があります。これは建設業法で禁止されている行為です。
建設業法 第19条の3
建設業者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その一方的な都合により、通常必要と認められる原価に満たない額で建設工事を請け負わせてはならない。(出典:建設業法 | e-Gov法令検索)
追加工事に見合う増額がなされないことは、この条文に抵触するリスクがあるため、十分な注意が必要です。元請が不当な代金で契約を締結するよう働きかけた場合、この条文に抵触する可能性があると当事務所では考えております。
数量が着工前に決まらない場合の最低限の対応
追加工事の数量や詳細が着工前に確定できないケースもあるかもしれません。その都度変更契約を締結することが非現実的な場合でも、国土交通省のガイドラインでは、少なくとも着工前に次の事項を書面で取り交わすことが望ましいとされています。
- 追加として施工を依頼する具体的な作業内容
- その後の全体が確定した時点で、遅滞なく変更契約を締結する旨
「一式」のような曖昧な記載を避け、可能な限り具体的に内容を明記することが、後々のトラブルを防ぐ上で役立ちます。少人数の体制でも、この「最低限の書面化」を心がけることが大切です。
出来高払いが「払われない」ときに見る契約の条項
出来高払いが予定されているにもかかわらず、支払いが滞っている場合、まずは自社で保管している契約書の内容を再確認することが重要です。特に建設業法が定める記載事項と照らし合わせながら、何が定められていたかを確認します。
出来形部分に対する支払いの時期・方法(建設業法第19条第1項第5号)
建設業法第19条第1項は、請負契約書に記載すべき事項として、「前金払又は出来形部分に対する支払の時期及び方法」を具体的に定めるよう義務付けています。
建設業法 第19条第1項第5号
前金払又は出来形部分に対する支払の時期及び方法を定めるときは、その時期及び方法(出典:建設業法 | e-Gov法令検索)
もし契約書にこの記載があるにもかかわらず支払われない場合は、契約違反となる可能性があります。まずは、自社が作成・保管している契約書(写しを含む)で、出来高払いの条件が明記されているかを確認しましょう。この情報は、後々の交渉において非常に重要な根拠となります。
変更時の工期・代金・損害の算定方法(建設業法第19条第1項第6号)
当初の契約書には、工事内容の変更等があった場合の、工期変更、請負代金の変更、損害負担とその額の算定方法について記載されていることが望ましいとされています。
建設業法 第19条第1項第6号
設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定めをするときは、その定め(出典:建設業法 | e-Gov法令検索)
出来高払いの対象となる工事内容が当初の計画から変更されている場合、この「変更時の算定方法」の記載があれば、それを根拠に支払いを求める交渉が可能になるかもしれません。契約書に具体的に記載されているかを確認することが肝要です。
公共工事と民間工事における手続の違い
公共工事においては、設計変更や追加工事に関する厳格な手続きが定められていることが一般的です。例えば、地方整備局の設計変更ガイドラインなどでは、協議の回答(指示)がない時点で施工した、契約書・共通仕様書の所定手続を経ていない、正式な書面によらない事項(口頭のみの指示・協議等)は、設計変更の対象にならないことが明示されていることがあります。
民間工事の場合も、公共工事ほど厳格ではないにしても、口頭指示のみでは、後々のトラブルの原因となりやすい点は共通しています。民間連合協定工事請負契約約款などでも、工事の追加・変更があれば請負代金額の変更を求め得ると規定されていることがあり、書面による手続きの重要性は民間工事においても同様に高いと言えます。中小企業として、その違いを理解しつつ、建設業法の原則を遵守する姿勢が求められます。
【当日】現場で残すもの(法律が求める書面の前段階)
口頭での追加指示や出来高に関する問題が発生したその日、現場でどのような記録を残すかが、後々の交渉や書面化において非常に重要です。これらは「法律が求める書面そのもの」ではありませんが、正式な書面を作成するための重要な根拠となります。少人数の体制でも、これらの記録を日々の業務に組み込むことで、リスクを軽減できる可能性があります。
指示内容の5W(いつ・誰が・どこで・何を・いつまでに)を日報に記録する
口頭での指示があったら、その場で(または直後に)日報やメモに、以下の要素を具体的に記録しましょう。これは、指示内容の明確性を確保し、後日「言った言わない」の争いを避けるために不可欠です。
- When(いつ): 指示があった日付と時刻
- Who(誰が): 指示をした人物の氏名と所属(元請の現場代理人、監督員など)
- Where(どこで): 指示があった場所(現場の具体的な箇所)
- What(何を): 具体的な追加工事内容、変更点、作業手順など
- When(いつまでに): その作業をいつまでに完了させるか、納期
これらの記録は、手書きのメモでも構いませんが、デジタルデータ(PC入力など)で整理すると管理がしやすくなります。
指示者の氏名・所属を確認する
指示をしてきた人物が、元請のどの部署の誰なのかを明確に把握しておくことが重要です。可能な限り名刺をもらう、または身分証等で身分を確認し、日報に記録しておきましょう。これは、後に正式な書面での変更契約を申し入れる際に、適切な窓口を特定するためにも役立ちます。
施工前後の写真・動画を撮影する(日付設定を忘れずに)
追加工事の対象となる箇所の施工前、施工中、施工後の写真を複数枚、様々な角度から撮影してください。スマートフォンのカメラ機能には日付や位置情報が自動的に記録される設定がありますので、これを活用することがおすすめです。動画も、状況をより詳細に伝える上で有効な手段となります。これらの視覚的記録は、口頭指示による作業が行われた事実とその内容を示す有力な証拠となります。可能であれば、タイムスタンプを付与できるアプリを活用すると、証拠能力を高めることができます。
図面・仕様書への朱書き、数量のメモを残す
既存の設計図面や仕様書に、口頭で指示された追加工事の内容や変更点を朱書きで記入し、その際に指示者の確認(口頭でも可)を取っておくと良いでしょう。また、追加で使用した材料の数量、人工(にんく、作業員数と作業時間)などを具体的にメモし、証拠として保管します。これにより、追加代金の根拠を具体的に示すことが可能になります。
その日のうちにメールやビジネスチャットで内容確認の連絡をする
指示があったその日のうちに、元請・発注者の担当者へ、口頭指示の内容を箇条書きにしたメールやビジネス用チャットツール(会社として運用している場合)を送付し、「本日ご指示いただいた内容は以下の通りで相違ございませんでしょうか。もし相違点がございましたら、ご返信いただけますようお願い申し上げます。」といった形で確認を求めましょう。これは、電磁的「契約」そのものとは異なりますが、協議の記録として、指示内容が共有されていた事実を示す貴重な証拠となります。返信がなくても、送付した記録があるだけでも一定の効力を持つことがあります。
当初契約書・注文書請書・特記仕様書の該当ページを撮影・保管する
追加工事や出来高に関する問題が発生した際、当初の契約内容が非常に重要になります。自社で保管している当初契約書や注文書請書、特記仕様書などの該当ページ(特に工事内容、請負代金、工期、支払い条件、変更時の取り決めが記載されている箇所)を撮影し、デジタルデータとしても保管しておきましょう。これにより、いつでも契約内容を参照し、今回の口頭指示や未払い出来高との関連性を確認できます。
ご注意ください: これらの記録は、建設業法第19条第2項が求める「書面による契約変更」を直接的に満たすものではありません。あくまで、後日正式な書面での契約変更や交渉を進めるための「証拠資料」として活用するものです。これらの初動対応は、少人数の体制でも実践しやすく、将来的なコストと工数を削減する上で非常に有効です。
【翌営業日〜3日】書面化の申し入れと協議の開始
当日現場で証拠を保全したら、速やかに元請・発注者に対して、追加工事や出来高に関する正式な書面での手続きを申し入れましょう。これは、建設業法が定める手続きに則り、自社の権利と利益を守る上で非常に重要なステップです。時間が経つほど交渉が難しくなる場合がありますので、早期の対応が推奨されます。
追加工事の見積条件提示を書面またはメールで求める
建設業法は、建設業者が発注者に見積書を提出する義務があるとともに、発注者も見積条件を提示するよう努めなければならないと定めています。
建設業法 第20条
建設業者は、その請け負う建設工事の工事内容に応じ、材料費、労務費その他の経費の内訳を明らかにして、建設工事の見積りをするよう努めなければならない。(中略)注文者は、請負契約を締結するまでに、建設業者に対し、見積条件を提示するよう努めなければならない。(出典:建設業法 | e-Gov法令検索)
口頭で指示された追加工事について、まずは元請・発注者に対し、正式な見積条件の提示を求める書面またはメールを送付しましょう。これにより、追加工事の対価に関する協議の開始を促します。この際、具体的な作業内容と、それにかかる概算費用を自社から提示することも有効です。
変更協議の申し出を行う
建設業法第20条の2では、工期や請負代金に影響する事象が発生した場合、注文者が建設業者に通知し、必要に応じて協議を行うよう努める義務を定めています。これに基づき、口頭指示による追加工事が工期や請負代金に影響を与えることを通知し、変更協議の申し出を行いましょう。
建設業法 第20条の2
建設工事の注文者は、設計変更、工事着手の延期その他建設工事の内容又は工期に影響を及ぼす事象が発生した場合には、その状況を速やかに建設業者に通知するとともに、必要に応じ、当該建設業者と協議を行うよう努めなければならない。(出典:建設業法 | e-Gov法令検索)
当初契約に定められた「変更時の算定方法」があれば、それに従う旨を添えて協議を求めるのが一般的です。中小企業にとっては、このような法令を根拠とした交渉が、公平な取引を実現するために不可欠となります。
数量未確定の場合の「作業内容確認書面」の取得
前述の通り、追加工事の数量が着工前に確定できない場合でも、国土交通省のガイドラインでは、少なくとも着工前に「追加として施工を依頼する具体的な作業内容」を記した書面を取り交わし、確定後に遅滞なく変更契約を結ぶことを推奨しています。この点を元請・発注者に伝え、まずは「作業内容のみ」の確認書面を発行してもらうよう申し入れましょう。これにより、曖昧な指示によるトラブルを未然に防ぎます。
書面・メール送付文の骨子例
元請・発注者に送る書面やメールの骨子は、次のような要素を含めると良いでしょう。法的なアドバイスではないため、具体的な文面は慎重に作成し、必要であれば専門家にご相談ください。
- 件名例: ○○工事における追加工事(○○箇所)に関する書面での合意形成のお願い
- 日付: 送付日
- 宛先: 元請・発注者の会社名、担当者名
- 差出人: 自社名、担当者名
- 本文内容:
- ○月○日付の口頭指示による追加工事の内容を具体的に記載
- 当該追加工事が工期および請負代金に影響を与える可能性がある旨を通知
- 建設業法第19条第2項に基づき、書面による契約変更の必要性を提起
- 建設業法第20条に基づき、追加工事の見積条件提示を依頼
- 今後の協議を申し入れる旨
- 「まずは、作業内容確認書の発行をお願いしたい」といった、段階的な書面化の提案
【1週間以内】未払い出来高の根拠を揃え、請求準備を進める
口頭指示された工事の出来高が支払われない状況であれば、1週間以内を目安に、支払いを求めるための具体的な根拠資料を整理することが重要です。これにより、元請・発注者との交渉を有利に進め、請求の正当性を主張する準備を整えます。少人数の体制でも、これらの準備は非常に重要です。
出来形の記録を体系的に整理する
当日収集した写真、動画、図面への朱書き、数量メモ、日報などの記録を体系的に整理しましょう。これらの記録は、実際に工事が進捗し、出来高が発生していることを客観的に示す重要な証拠となります。特に、日付が記録されていることや、現場の状況が具体的にわかる写真・動画は非常に強力な根拠となります。ファイル名に日付や場所、内容を明記するなど、検索しやすい形で保存することが望ましいです。
当初契約の支払条項と、変更未了の事実を確認する
自社で保管している当初契約書を再度確認し、出来高払いの時期や方法に関する条項(建設業法第19条第1項第5号)を明確に把握します。また、口頭指示による変更が、正式な書面による契約変更に至っていない事実を再確認しておきましょう。契約で定められた支払条件と、現実の未払い状況を比較することで、契約違反の根拠を固めることができます。
既払額・未払額の計算メモを作成する
これまでの工事で受領した金額(既払額)と、今回の出来高で請求すべき金額(未払額)を詳細に計算し、メモとして残しておきましょう。計算の根拠となる材料費の請求書、労務費の記録(作業日報や出面表など)、その他経費の領収書なども併せて整理し、いつでも提示できる状態にしておくことが重要です。これにより、請求額の客観的な根拠を示すことができます。
建設業法第19条書面の写しを帳簿として保管する
建設業法第40条の3及び建設業法施行規則第26条により、建設業者は請負契約に関する帳簿を備え、所定の事項を記載し、その書面または写しを保存する義務があります。この義務を遵守し、当初契約書や将来的に変更契約書が作成された場合は、その写しを適切に帳簿として保管しておきましょう。電子契約の場合も、紙に出力できる形で保存すれば足りる場合があります。
建設業法 第40条の3
建設業者は、国土交通省令の定めるところにより、その営業に関する帳簿を備え、これに請け負つた建設工事ごとに、所定の事項を記載し、及びその契約書面に関する書類を添付して保存しなければならない。(出典:建設業法 | e-Gov法令検索)
相手が「口頭だから払わない」と言った場合の対応
もし元請・発注者から「口頭での指示だから、支払いはできない」といった返答があった場合、冷静に、しかし毅然と対応することが肝要です。具体的には、「建設業法上、口頭指示のみでの追加工事は原則として書面による契約変更が求められており、口頭のみでは不十分であること」「当方は御社の指示に基づき工事を進めており、その事実を示す記録を保有していること」などを伝え、書面による合意形成と支払いを再度求める必要があります。
また、建設業法第19条の3が禁止する「不当に低い請負代金」のリスクにも言及し、自社の正当な権利を主張することが大切です。あくまで事実と法令に基づき、感情的にならず冷静に対応し、状況が解決しない場合は、速やかに専門家にご相談いただくことを推奨いたします。
やってはいけない初動(国土交通省ガイドラインの違反事例に対応)
追加工事や出来高に関する問題が発生した際、不適切な初動対応は、かえって自社の立場を不利にする可能性があります。国土交通省の建設業法令遵守ガイドラインや建設業法の趣旨に照らし、中小・零細企業の経営者様が避けるべき初動対応を理解しておきましょう。
- 口頭指示のまま着工し、完工後に初めて金額を提示する: 建設業法第19条第2項に反する可能性があります。着工前の書面合意が原則であることを理解し、最低限「作業内容確認書面」の取得に努めるべきです。
- 「一式」だけの曖昧な追加見積を出す: 建設業法第20条が求める「材料費、労務費その他の経費の内訳を明らかにした」見積りとは言えず、後々のトラブルの元になりかねません。できる限り詳細な内訳を記載するように心がけましょう。
- 減額や赤伝(赤字計上)を理由なく受け入れる: 正当な理由がないにもかかわらず、一方的な減額要求に応じることは、取引上の地位の不当利用に繋がり、建設業法や場合によっては下請法に抵触する可能性があります。安易な同意は避けてください。
- 証拠を個人スマホだけに置き、会社として保存しない: 会社の業務として行った記録は、会社として適切に保存・管理すべきです。個人のデバイスに依存すると、紛失や退職後の確認が困難になるリスクがあります。クラウドサービスなどを活用し、複数人で共有・管理できる体制を整えることをお勧めします。
- 下請法の60日支払ルールを、すべての建設工事に誤適用する: 建設業法上の建設工事の請負契約は、原則として下請法の「役務提供等委託」の定義から除外されます。そのため、建設工事の追加指示・出来高未払い問題の解決は、まず建設業法を優先して考えるのが適切です。ただし、製造委託や修理委託など、下請法の対象取引に当たるかは資本金区分と取引内容で別途判定が必要です。
もし下請法の対象となる場合、親事業者は書面(第3条書面)の交付義務、受領日から60日以内の支払義務、遅延利息(年14.6%)などの義務を負います。2025年改正で導入される手形払いの禁止や協議なき代金決定の禁止は、施行期日(本則は令和8年1月1日等)を一次資料で確認する必要がありますが、建設工事本体に直結するものではない点に留意が必要です。
よくある質問 (Q&A)
中小企業の経営者様からよくいただく、追加工事や出来高払いに関する疑問にお答えします。
Q. LINEの既読は契約になるのでしょうか?
A. 建設業法第19条第3項では、相手方の承諾を得れば、電子契約(電磁的措置)で書面交付に代えられると定めています。しかし、単にLINEの既読が付いたことだけで契約が成立したとみなされるわけではありません。電磁的措置による契約締結には、事前に相手方の承諾を得ていることや、建設業法施行規則で定められた基準を満たしていることが原則として必要となります。単なるメッセージのやり取りだけでは、法的に有効な契約変更とはなりにくいと言えるでしょう。ビジネスで利用するチャットツールであっても、正式な契約変更は別途書面または厳格な電子契約の手続きを踏むことが重要です。
Q. 元請が書面を出してくれません。このまま施工しても問題ないでしょうか?
A. 原則は、着工前に書面による合意形成を行うべきです。しかし、やむを得ない事情で先に施工せざるを得ない場合は、まずは本記事の「【当日】現場で残すもの」で述べた手順で、作業内容や指示を詳細に記録し、速やかに「作業内容のみ先に書面化してほしい」と元請に申し入れることが重要です。この書面で、追加として施工を依頼する具体的な作業内容を相互に確認し、全体が確定した時点で遅滞なく変更契約を締結する旨を明記してもらうように努めましょう。元請が書面を出さない状況が続く場合は、早めに当事務所のような専門家にご相談いただくことをお勧めします。
Q. 公共工事と同じ手続きをすればよいのでしょうか?
A. 民間工事においても、建設業法第19条が定める書面による契約締結・変更の原則は同じです。公共工事ほど厳格な設計変更の社内ルールは発注者によって異なるかもしれませんが、法的な要求事項としては民間工事も遵守すべき事項です。公共工事の手続きは、民間工事におけるトラブル予防の参考にはなり得ますが、そのまま適用できるとは限りません。まずは自社の契約内容と建設業法の原則に則った対応が肝要です。
Q. 一人親方でも同じ対応が必要なのでしょうか?
A. はい、建設業法は「建設工事の請負契約の当事者」に適用されます。そのため、一人親方として建設工事を請け負う場合も、元請・発注者との契約は建設業法の対象となります。書面による契約締結・変更の原則は同様に遵守すべきであり、口頭指示や出来高未払いに関する対応も、本記事でご紹介した手順に沿って記録を残し、書面化を求めることが、ご自身の事業を守る上で非常に重要となります。
当事務所にご相談いただく際の準備
建設工事の口頭追加指示や出来高未払いに関して当事務所にご相談いただく際は、以下の資料を事前にご用意いただけますと、よりスムーズかつ的確なアドバイスが可能となります。
- 当初の請負契約書(注文書、請書、特記仕様書などを含む)
- 口頭指示があった際の記録(日報、メモ、写真、動画など)
- 元請・発注者とのメールやビジネスチャットでのやり取りの記録
- これまでの請求書および入金履歴
- 未払いとなっている出来高に関する計算メモや証拠資料
「書面未了のまま工期だけ進んでいる案件」や「出来高条項が契約に明記されていない案件」など、個別の状況に応じた最適な解決策を、当事務所の総務の助っ人/建設業サポートが共に検討させていただきます。お気軽にご相談ください。
建設工事における原則は、「着工前に書面で契約内容を変更する」ことです。口頭指示があった当日に残す証拠は、その書面を後から適切に作成し、自社の権利を主張するための重要な材料となります。日々の業務の中で、確実な記録を心がけることが、将来のトラブルを未然に防ぎ、貴社の安定的な経営に繋がります。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。
総務の助っ人にご相談ください!
労務リスク、許認可状況、経営体制など、現状の課題を一緒に確認し、今後の方向性を整理いたします。
「総務の助っ人」として、経営者様の右腕となり長期的に伴走できる関係を築きたいと考えています。
- 就業規則整備・労務トラブル対応
- 各種許認可の取得・維持管理
- 資金調達・補助金申請支援
- 経営全体の総務体制構築
072-900-2723
【平日受付:9:00~19:00】