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従業員の遅刻が続く場合、懲戒処分は可能か?中小企業経営者が確認すべき点

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2026.06.24
  • 労務・人事
  • 法務・リスク管理
  • 環境整備
  • 総務の助っ人ラボ

この記事の監修

社会保険労務士 行政書士 公認 不動産コンサルティングマスター

松原 元

平成23年12月に社会保険労務士登録、平成25年5月に行政書士登録し、ダブルライセンスで労務・社会保険関係から建設業、宅建業、産廃等の 許認可の取得・維持までをワンストップで対応可能。資金繰りのサポートも行っており、200件以上の融資支援実績を持つ。

目次

はじめに

「また遅刻です。これで今月〇回目になります。」

現場の管理職の方から、このような相談を受けることは少なくありません。その際、

  • 「始末書を提出させたい」
  • 「懲戒処分を検討したい」
  • 「他の従業員への示しがつかない」

といったお声が続くことも一般的に見受けられます。

確かに、従業員の遅刻が繰り返される状況は、職場の秩序や業務効率に影響を及ぼす可能性があります。しかし、遅刻の回数だけを理由に性急な懲戒処分を検討することは、後々「なぜこの従業員だけが処分されたのか」といった公平性の問題や、法的リスクにつながるおそれがあります。

本記事では、従業員の遅刻が続く場合の対応について、社会保険労務士と行政書士の両視点から、中小・零細企業の経営者の皆様が確認すべき実務上のポイントと関連法令、そして適切な対応手順を解説いたします。専任の人事担当者がいない場合でも、これらの確認は原則として重要です。

結論:遅刻回数だけで懲戒は原則困難。まず多角的な事実確認と就業規則の運用状況が重要です

従業員の遅刻が続いたとしても、単純に「〇回遅刻したから懲戒処分が可能」と判断することは、一般的に難しいものです。懲戒処分は、労働契約法(平成19年法律第128号)第15条が定めるように「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。

このため、懲戒処分を検討する前に、以下の多角的な事実確認と、自社の就業規則およびその運用状況を詳細に確認することが、原則として不可欠であると当事務所は考えております。

  • 遅刻の具体的な状況: 時間帯、時間、回数、理由、連絡状況など
  • 過去の指導経緯: いつ、誰が、どのように指導したか、その記録の有無
  • 他の従業員との公平性: 同様のケースでの過去の対応状況
  • 就業規則の内容: 遅刻に関する規定、懲戒規定
  • 就業規則の運用実態: 規定が現場でどのように適用されているか、管理職による運用方法の統一性
  • 対象従業員の個別事情: 健康状態、通勤事情、家庭環境など

これらの確認を怠ると、懲戒処分が無効と判断され、かえって企業がリスクを負う可能性もございます。まずは事実を正確に把握し、段階的な指導を経て、改善を促すプロセスが一般的に推奨されます。

ある中小企業での仮のケーススタディ

ある食品製造業の中小企業(従業員約25名)での事例を仮に想定してみましょう。

シフト制で工場を運営しているこの企業では、ある従業員が2か月間で5回の遅刻を繰り返しました。遅刻時間は5分から15分程度で、その理由は電車遅延、家族の送迎、体調不良など様々でした。

直属の上司からは「勤務態度に問題がある。他の従業員にも悪影響が出ているため、始末書提出や懲戒処分を検討したい」という相談がありました。

しかし、総務・経理業務を兼務する経営者の方が確認を進めると、以下のような実態が判明しました。

  • 遅刻は確かに5回あったが、その連絡方法は部署や担当者によってばらつきがあった。
  • 部署によっては、短時間の遅刻に対して口頭注意のみで済ませているケースも見られた。
  • 過去に遅刻を理由とした懲戒処分の事例がほとんどなく、明確な運用基準が定まっていない印象があった。

このケースで問題の本質はどこにあるのでしょうか。

この問題の本質は「遅刻管理の仕組み」にあります

上記の仮のケーススタディから見えてくるのは、問題の本質が単に「従業員が遅刻した」ことだけではないという点です。

より深く掘り下げると、本当の論点は「会社として遅刻をどのように管理し、就業規則を運用しているか」にあると言えるでしょう。

もし部署間や担当者間で遅刻への対応が異なっていれば、例えば「Aさんは口頭注意で済んだのに、Bさんは始末書を求められた」といった不公平感が生まれる可能性があります。これは従業員の信頼を損ね、会社全体の人事運用における公平性を疑問視される事態につながりかねません。

懲戒処分は、あくまで最終的な手段であり、その前提として明確なルールと一貫した運用が求められます。特に中小企業においては、専任の人事担当者がいない場合も多いため、経営者の方ご自身が、就業規則の整備と運用実態の把握に努めることが非常に重要になります。

中小企業経営者が陥りがちな失敗と対策

従業員の遅刻対応において、中小企業経営者の方が意図せず陥りがちな失敗パターンと、その対策について解説します。

1. 回数だけで懲戒を検討してしまう

「〇回遅刻したら処分」という単純な判断は、前述の通り労働契約法上のリスクを伴います。遅刻の回数だけでなく、以下の点を複合的に考慮する必要があります。

  • 遅刻の具体的な時間: 数分の遅刻と数時間の遅刻では、業務への影響度が異なります。
  • 遅刻の理由: 正当な理由のない遅刻なのか、やむを得ない事情によるものなのか。
  • 改善指導の有無と内容: 過去にどのような指導を行い、対象従業員はどの程度改善の努力をしたのか。

対策: 遅刻の事実を客観的に記録し、指導のプロセスを明確に定めておくことが肝要です。

2. 上司の主観的な印象で判断してしまう

「勤務態度が悪い」「やる気がない」といった主観的な印象や感情に基づいて人事判断を下すことは、トラブルの原因となり得ます。懲戒処分には客観的な証拠が必要です。

対策: 遅刻の事実、業務への影響、指導内容とその反応などを、日付とともに記録する習慣をつけましょう。これは少人数の体制でも実践可能なことです。

3. 指導記録がない

口頭での注意だけでは、後になって従業員から「注意された認識がない」「そのような内容は聞いていない」と主張される可能性があります。指導した事実や内容が曖昧だと、後の懲戒判断の根拠が弱まります。

対策: 口頭注意であっても、その日時、内容、相手の反応などをメモとして残しておくことが推奨されます。可能であれば、面談記録として双方の署名をもらうことも有効です。

4. 他の従業員との比較をしない(運用に一貫性がない)

同様の遅刻事案があったにもかかわらず、部署や上司によって対応が異なる場合、不公平感が従業員間に広がり、会社の信頼性が損なわれます。特定の従業員だけが厳しく処分された場合、差別的であると訴えられるリスクも生じます。

対策: 遅刻に関する対応基準を就業規則で明確にし、管理職がその基準に沿って一貫した対応ができるよう、必要に応じて情報共有や簡単な研修を行うことが望ましいでしょう。当事務所では、こうした運用統一のためのサポートもご提案できます。

私ならどのように整理し、アドバイスするか

当事務所にご相談いただいた場合、懲戒処分を検討する前に、まず以下の5つのポイントを多角的に整理することを推奨します。

  1. 対象従業員本人の個別事情の確認

    遅刻の背景には、体調不良、家庭の事情(育児・介護)、通勤事情の変化、または精神的な不調が隠されている可能性もございます。まずは対象従業員との面談を通じて、遅刻に至った具体的な理由や、現在抱えている問題について耳を傾けることから始めます。この際、一方的な聴取ではなく、あくまで事実確認と状況把握に重点を置く姿勢が重要です。

  2. 過去の指導経緯と記録の有無

    これまでどのような指導を行ってきたか、その記録が残っているかを確認します。口頭注意、書面での注意、具体的な改善指示など、指導の段階や内容が明確であればあるほど、今後の対応の正当性を裏付ける材料となります。

  3. 他の従業員との比較と公平性の確保

    過去に同様の遅刻事案があったか、その際にどのように対応したかを確認し、今回のケースと照らし合わせます。特定の従業員だけを厳しく処分するような不公平な対応は、後のトラブルの原因となりかねません。社内全体で一貫した対応原則があるかを確認します。

  4. 就業規則の内容の確認

    就業規則に、遅刻に関する規定(懲戒事由、懲戒の種類、減給の定めなど)が具体的に記載されているかを確認します。特に、どの程度の遅刻でどのような処分が想定されるのか、段階的な対応が明記されているかが重要です。

  5. 管理職による運用方法の実態

    就業規則の規定が、現場の管理職によってどのように運用されているかを確認します。規定があっても、それが現場で形骸化していたり、部署ごとに異なる解釈で運用されていたりすると、公平な人事運用の妨げとなります。

これらを整理した上で、対象従業員に対して現在どの指導段階にあるのか、改善計画の策定が必要か、そして最終的に懲戒処分が相当と判断できるかを慎重に検討します。中小企業でも、これらの手順を文書化し、共有することで、リスクを軽減できる可能性があります。

懲戒処分を検討する前に最初に確認すべき具体的な項目

性急な処分を避けるためにも、以下の事実確認を丁寧に行うことを推奨します。これは、少人数の事務担当者でも対応可能な、基本的な情報収集です。

  • 遅刻日時: 具体的な日付と時間。
  • 遅刻時間: 所定の始業時刻から何分遅れたか。
  • 遅刻理由: 対象従業員からどのような理由が報告されたか。客観的な裏付け(公共交通機関の遅延証明書など)の有無。
  • 上司への連絡方法・タイミング: 遅刻する旨の連絡があったか、いつ、どのような方法(電話、メールなど)で連絡があったか。就業規則に定める連絡方法と合致しているか。
  • 過去の指導内容: これまでにいつ、誰が、どのような内容で指導(口頭注意、書面注意など)を行ったか。
  • 面談実施の有無: 遅刻に関して、これまでに対象従業員との面談は実施されたか。その内容は。
  • 他の従業員の状況: 同様の遅刻事案があった場合、他の従業員にはどのように対応したか。
  • 健康上の問題: 持病や精神的な不調など、遅刻の背景に健康上の問題が関連している可能性はないか。必要であれば産業医面談や医療機関への受診を促すことも検討します。
  • 通勤事情: 通勤経路や手段に変化があったか、または通勤に支障が生じるような客観的な事情(交通機関の運休・遅延が頻発するなど)はないか。
  • 家庭事情: 育児や介護など、家庭の事情が遅刻に影響している可能性はないか。

これらの事実を客観的に把握し、文書として記録しておくことが、後の判断の重要な根拠となります。

就業規則だけ確認しても危険な理由:運用実態の重要性

就業規則に「正当な理由なく遅刻を繰り返した場合は懲戒の対象とする」といった規定があったとしても、それだけで安心はできません。

重要なのは、その規定が「現場で適切に運用されているか」という実態です。

例えば、以下のような状況では、就業規則に規定があったとしても、懲戒処分が有効と認められないリスクがあります。

  • 注意基準が曖昧: 何分以上の遅刻から注意するのか、何回で次の段階の指導に移るのかといった基準が明確でない。
  • 面談手順が未整備: 遅刻に関する面談の実施方法や、その記録の取り方が統一されていない。
  • 指導記録が残されていない: 口頭注意や面談を実施しても、その内容や日時が記録に残されておらず、客観的な証拠がない。
  • 部署間で運用が異なる: ある部署では厳しく対応しているが、別の部署では黙認されているなど、部署間で対応にばらつきがある。

就業規則は「会社のルールブック」ですが、それが従業員に周知され、公平かつ一貫して運用されていなければ、単なる紙の上の規定となってしまいます。実態と乖離した運用は、懲戒権濫用と判断される原因となる可能性もあります。中小企業においては、就業規則の作成・変更だけでなく、その適切な運用に注力することが肝要です。

実務上のチェックポイントと具体的な対応手順

中小企業が従業員の遅刻に適切に対応するための実務上のチェックポイントと、具体的な手順について解説します。専任の人事担当者がいない場合でも、これらの取り組みは原則として重要です。

1. 段階的な指導の実施

懲戒処分は最終手段であり、まずは段階的な指導を通じて改善を促すことが一般的です。

  • 口頭注意: 初期の段階では、遅刻の事実を伝え、改善を求める口頭での注意を行います。この際、日時、内容を記録しておくことが重要です。
  • 面談と書面による注意・指導: 改善が見られない場合、改めて面談の場を設け、遅刻が業務に与える影響や会社の期待を伝えます。書面で注意・指導書を交付し、今後の改善計画や目標を共有することも有効です。この際、就業規則の該当箇所を説明し、違反行為であることを明確に伝えます。
  • 改善計画の策定: 対象従業員と共に具体的な改善計画(例:〇月〇日まで遅刻をしない、連絡方法を徹底するなど)を策定し、その進捗を定期的に確認します。

2. 指導内容の記録化の徹底

口頭注意から書面指導に至るまで、全ての指導内容を記録に残すことが極めて重要です。

  • 記録項目: 指導日時、指導者、対象従業員、指導内容、従業員の反応、今後の改善目標や指示事項、次回の確認日時などを具体的に記録します。
  • 記録方法: メモ、面談記録、注意指導書など、形式は問いませんが、客観的に事実を証明できるものが望ましいです。可能であれば、従業員に内容を確認してもらい、署名・捺印をもらうことで、後々の認識の相違を防ぐことができます。

中小企業であれば、簡易なフォーマットを作成し、事務担当者が管理するだけでも十分機能します。

3. 管理職への教育と情報共有

上司による判断のばらつきを防ぎ、公平な運用を確保するために、管理職への教育と情報共有が不可欠です。

  • 就業規則の周知: 遅刻に関する就業規則の規定や、段階的指導のプロセスを管理職に周知徹底します。
  • ケーススタディの共有: 過去の事例や対応方法を共有し、同様の事態が発生した際の対応指針を明確にします。
  • 記録の重要性の理解: 管理職に対し、指導記録を残すことの重要性を伝え、実践を促します。

大規模な研修が難しい場合でも、定期的なミーティングでの情報共有や、簡単なマニュアルの作成で対応可能です。

4. 健康面への配慮と支援

遅刻の背景に、従業員の健康上の問題(例えば、睡眠障害、精神的な不調、持病の悪化など)が隠れている可能性もあります。

  • 状況の聴取: 面談の際には、健康状態について配慮しながら状況を聴取します。
  • 専門機関への受診勧奨: 必要に応じて、医療機関への受診や、行政機関が提供する無料の健康相談窓口の利用を促すことも検討します。

この配慮は、企業の安全配慮義務の観点からも重要です。

5. 運用基準の統一

部署間や時期によって対応が変わらないよう、遅刻に関する運用基準を統一し、社内全体で周知します。

  • 基準の明確化: 例えば「月〇回以上の遅刻で書面注意」「〇分以上の遅刻は欠勤扱いとする場合がある」など、具体的な基準を設けます。
  • 定期的な見直し: 運用状況を定期的に見直し、必要に応じて就業規則や運用の改善を図ります。

これらのプロセスを経て初めて、懲戒処分の検討に進むことが適切であると当事務所は考えます。

関連法令と懲戒権濫用の考え方

従業員の遅刻に対する懲戒処分を検討する際には、以下の労働関係法令を理解しておくことが不可欠です。

労働基準法 第89条:就業規則の作成・届出義務

「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。」

(第2号:賃金、労働時間に関する事項、第3号:休憩、休日、休暇に関する事項、第4号:昇給に関する事項第5号:退職に関する事項第6号:災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項第7号:表彰及び懲戒に関する事項第8号:その他全労働者に適用される事項

労働基準法 第89条

労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対し、就業規則の作成と行政官庁(労働基準監督署長)への届出を義務付けています。この就業規則には、懲戒に関する事項を必ず記載しなければなりません。遅刻に関する懲戒を検討する際、まず自社の就業規則に遅刻に対する懲戒規定が明記されているかを確認することが第一歩となります。

なお、従業員が10人未満の事業場においても、就業規則を作成し、従業員に周知することは、労使間のトラブルを未然に防ぎ、円滑な企業運営を行う上で非常に有用です。

労働契約法 第15条:懲戒権の濫用

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする。」

労働契約法 第15条

この条文は、懲戒処分が有効であるための要件を定めています。具体的には、以下の2つの観点から判断されます。

1. 客観的に合理的な理由

懲戒事由となった行為(今回の場合は遅刻)が、就業規則の懲戒規定に照らして実際にあったこと、またそれが懲戒に値するものであることを、客観的な証拠に基づいて説明できる必要があります。単に「遅刻した」というだけでなく、その遅刻の回数、頻度、時間、業務への影響、指導の経緯などが詳細に立証できるかが問われます。

2. 社会通念上の相当性

懲戒の内容(戒告、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇など)が、その行為の性質や程度、従業員の反省の有無、過去の懲戒歴、他の従業員との比較などを考慮して、社会一般の常識に照らして重すぎないか、バランスが取れているかが問われます。例えば、軽微な遅刻が数回あっただけでいきなり懲戒解雇とするのは、原則として相当性を欠くと判断される可能性が高いでしょう。

単純に遅刻回数だけで判断することは、この「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」のいずれかを欠くと判断されるリスクがあるため、非常に慎重であるべきです。

Q&A:従業員の遅刻に関するよくある疑問

中小企業の経営者の方からよくご質問いただく内容にお答えします。

Q1: 遅刻した従業員に、遅刻分の賃金をカットする(ノーワーク・ノーペイの原則)ことは可能ですか?

A1: はい、原則として可能です。労働基準法には、労働者が労働しなかった時間に対して賃金を支払う義務はないとする「ノーワーク・ノーペイの原則」があります。遅刻によって労働しなかった時間分の賃金を支払わないことは、この原則に基づき認められます。ただし、就業規則にその旨が明記されており、実際に労働しなかった時間分だけを正確に差し引くことが前提となります。また、罰則的に超過して減給することは、労働基準法第91条(「就業規則で、労働者に対し減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」)の制限を受ける可能性がありますので、注意が必要です。

Q2: 遅刻が改善されない従業員に対し、最終的に解雇を検討することはできますか?

A2: 遅刻を理由とした解雇は、極めて慎重な判断が必要です。懲戒解雇とするためには、労働契約法第15条の要件(客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性)を非常に厳格に満たす必要があります。具体的には、再三にわたる指導や警告を繰り返し、改善の機会を十分に与えたにもかかわらず、全く改善が見られず、企業の業務運営に重大な支障を与え続けているようなケースが考えられます。また、指導の記録や本人の反省の有無なども重要な要素となります。一般的には、段階的な指導を無視し、改善の見込みがないと判断される場合に初めて検討できる、最終的な手段であるとお考えください。解雇を検討される場合は、必ず事前に専門家にご相談いただくことを強く推奨いたします。

Q3: 就業規則がない場合でも、遅刻を理由に処分できますか?

A3: 就業規則がない場合でも、労働契約は成立しており、従業員には会社の指揮命令に従う義務(誠実義務)がありますので、遅刻行為自体が無条件に許されるわけではありません。しかし、懲戒処分を行うためには、どのような行為が懲戒の対象となるか、どのような種類の懲戒処分があるかなどを、事前に労働者が知りうる状態にしておくことが、労働契約法上の原則(労働契約法第7条、第10条)として求められます。就業規則がない、または従業員に周知されていない状況で懲戒処分を行うことは、懲戒権の濫用と判断されるリスクが非常に高まります。従業員が10人未満の企業でも、労使間のルールを明確にする意味で、就業規則またはそれに準ずる服務規律を整備し、周知徹底することを強くお勧めします。

まとめ:懲戒を急がず、事実確認と適切なプロセスが中小企業の労務管理の鍵

従業員の遅刻が続く状況は、経営者にとって頭の痛い問題であり、現場からは早期の解決を求める声が上がることも自然なことです。しかし、実務上、性急に懲戒処分を進めることは、法的リスクや従業員からの信頼喪失につながる可能性があります。

最も重要なのは、「なぜ遅刻したのか」という従業員側の事情だけでなく、「会社としてどのように遅刻を管理し、指導してきたのか」という、自社の労務管理の状況を客観的に確認することです。

特に、中小・零細企業の経営者の皆様が確認すべきポイントは以下の通りです。

  • 多角的な事実確認: 遅刻の回数だけでなく、時間、理由、連絡状況、過去の指導経緯など、詳細な情報を収集し記録する。
  • 就業規則と運用実態の確認: 自社の就業規則に遅刻や懲戒に関する規定が明記されており、それが部署間で公平かつ一貫して運用されているかを確認する。
  • 段階的な指導プロセス: 口頭注意から始まり、書面による指導、改善計画の策定など、段階を踏んだ指導を実施し、その都度記録を残す。
  • 公平性の確保: 他の従業員との比較を行い、特定の従業員だけが不当に重い処分を受けないよう配慮する。
  • 個別事情への配慮: 健康上の問題や家庭の事情など、遅刻の背景にある個別事情にも耳を傾ける。

懲戒処分は、これら全てのプロセスを適切に経て、最終的な手段として検討されるべきものです。少人数の体制でも、これらの手順を文書化し、共有することで、労務トラブルのリスクを軽減し、より健全な職場環境を築くことにつながります。

ご不明な点や個別の事案で判断に迷われる場合は、まずは専門家への相談をご検討いただくことが有用です。当事務所では、中小企業の皆様の労務管理に関するご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

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