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介護現場のカスハラ対応――職員を守るために、最初に何をすべきか

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2026.06.18
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この記事の監修

社会保険労務士 行政書士 公認 不動産コンサルティングマスター

松原 元

平成23年12月に社会保険労務士登録、平成25年5月に行政書士登録し、ダブルライセンスで労務・社会保険関係から建設業、宅建業、産廃等の 許認可の取得・維持までをワンストップで対応可能。資金繰りのサポートも行っており、200件以上の融資支援実績を持つ。

導入

訪問介護や介護サービスの現場では、利用者本人だけでなく、その家族との関係が非常に重要になります。 家族が不安を抱えていることも多く、事業所側としては、できるだけ丁寧に対応したいと考えるのが自然です。

しかし、その対応が行き過ぎると、現場職員が疲弊します。 暴言、長時間の叱責、契約範囲外の要求、過度な報告要求。 これらを「利用者家族だから仕方ない」と放置すると、職員の心が折れていきます。

私は、この問題の本質は「問題家族への対応」だけではなく、 「会社が職員を守る線引きを持っているか」だと考えます。

相談事例

大阪府内で訪問介護・居宅介護支援事業を行う会社からの相談です。 従業員は42名、年商は約2億6,000万円。 訪問介護、生活援助、身体介護、ケアマネジメントを行う地域密着型の事業所です。

問題になっているのは、要介護3の利用者Bさんの長男Cさんです。 Bさん本人は穏やかで、サービスの必要性もあります。 しかし、同居していない長男Cさんが、事業所やヘルパーに対して過剰な要求を繰り返しています。

Cさんは、 「契約時間外でも掃除くらいできるはずだ」 「前のヘルパーはもっと気が利いた」 「毎回写真付きでLINE報告をしてほしい」 などと要求するようになりました。

さらに、若手ヘルパーに対して、 「こんな人間に母を任せられない」 「給料をもらう資格がない」 と発言しました。 そのヘルパーは泣いて帰社し、その後、出勤を減らしています。

ベテランヘルパーからも、 「Cさん宅に行くなら辞める」 という声が出ています。 サービス提供責任者も、Cさんからの電話対応で疲弊しています。

一方で、Cさんは、 「行政にもSNSにも全部書く」 「地域包括にも言う」 と発言しています。

社長は、職員を守りたい気持ちはあるものの、 Bさん本人を見捨てるようなことはしたくない。 地域包括支援センターとの関係も悪化させたくない。 そう考え、何から手をつけるべきか迷っていました。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、Cさん個人の性格だけではないと考えます。

もちろん、Cさんの暴言や過剰要求は重大な問題です。 現場職員の人格を傷つける発言や、契約範囲外のサービス要求を放置してよいわけがありません。

しかし、より大きな問題は、会社としての対応方針がないことです。

現場ヘルパーが直接怒られる。 サービス提供責任者が長時間電話対応をする。 管理者が注意しようとしても、社長が評判悪化を恐れて強く出られない。 この状態では、職員は「会社は守ってくれない」と感じます。

介護サービスは、人が支える仕事です。 職員が壊れてしまえば、利用者を支えることもできません。

だからこそ、最初に考えるべきことは、 「Cさんを切るか、我慢するか」 ではありません。

最初に考えるべきことは、 「職員を守りながら、Bさん本人の支援をどう継続するか」 です。

よくある失敗

このようなケースでよくある失敗は、大きく2つあります。

1つ目は、評判を恐れて我慢し続けることです。

「SNSに書かれたら困る」 「地域包括との関係が悪くなると困る」 「利用者家族を怒らせたくない」 という理由で、現場に我慢させ続けるケースがあります。

しかし、これは非常に危険です。 現場職員は、会社の姿勢を見ています。

暴言を受けても守ってもらえない。 契約外の要求にも応じさせられる。 そのように感じれば、職員は離れていきます。

一人が辞めるだけでは終わりません。 「この会社は現場を守らない」という空気が広がれば、退職連鎖になります。

2つ目は、感情的に即時契約解除へ進むことです。

反対に、 「これはカスハラだから、すぐ契約解除だ」 と動くのも危険です。

職員を守る姿勢を示すこと自体は重要です。 しかし、Bさん本人にはサービスが必要です。 問題行動をしているのはCさんであり、Bさん本人ではありません。

地域包括支援センター、担当ケアマネ、行政、代替サービスの確保を飛ばして解除すると、 「利用者を突然見捨てた」と受け止められる可能性があります。

つまり、我慢し続けても失敗します。 しかし、いきなり切っても失敗する可能性があります。

私ならどう考えるか

私なら、まず現場職員への直接攻撃を止めます。

最初にやるべきことは、Cさんとの感情的な対決ではありません。 また、すぐに契約解除を通知することでもありません。

まず、Cさんから現場ヘルパーへの直接連絡を止めます。 電話やLINEでの連絡窓口を、管理者または決められた責任者に一本化します。

そして、暴言や過剰要求の内容を記録します。 いつ、誰が、何を言われたのか。 どの要求が契約範囲外なのか。 職員にどのような影響が出ているのか。 これを時系列で整理します。

そのうえで、地域包括支援センターや担当ケアマネに状況を共有します。 ここで重要なのは、単に「Cさんがひどい」と訴えることではありません。

「Bさん本人への支援は継続したい」 「ただし、職員への暴言や契約外要求は継続できない」 「そのため、今後の連絡方法と対応範囲を明確にしたい」 という形で共有することです。

最善策

私が最善だと考える初動は、次の対応です。

まず社内でCさん対応を管理者に一本化し、現場ヘルパーへの直接連絡を止める。 暴言・要求内容を記録し、職員保護ルールを整えたうえで、 地域包括とCさんに段階的に対応方針を伝える。

これは、Cさんの要求を受け入れるという意味ではありません。 むしろ、会社として明確に線を引くための準備です。

職員を守るためには、感情的に強く言い返すことよりも、 仕組みとして職員を矢面に立たせないことが重要です。

Cさんへの対応窓口を一本化する。 現場職員に直接叱責させない。 契約範囲外の要求には応じない。 暴言があれば記録する。 改善されなければ、条件変更や契約解除も検討する。

この順番で進めるからこそ、職員保護と利用者支援の両方を守りやすくなります。

なぜ法律だけでは解決できないのか

この問題には、法律上の論点があります。

会社には、職員が安全に働けるよう配慮する義務があります。 利用者家族からの暴言や長時間叱責を放置すれば、職員の心身に悪影響が出ます。 会社として何も対応しなければ、職員保護の観点で問題になります。

一方で、介護サービスには公共性があります。 利用者本人にサービスが必要な場合、事業所の都合だけで突然打ち切ることはできません。 契約内容、解除条項、代替支援、関係機関への共有などを踏まえる必要があります。

つまり、法律上は「職員を守る必要がある」と同時に、 「利用者本人への支援をどう途切れさせないか」も考えなければなりません。

ただし、法律論だけで考えると、 「契約解除できるか」 「安全配慮義務違反になるか」 という話に寄りがちです。

実際の経営判断では、それだけでは足りません。

職員の感情、退職リスク、地域包括との関係、SNS投稿の可能性、 利用者本人の生活、管理者の疲弊、会社の評判。 これらを同時に見なければなりません。

重要なのは、誰が正しいかではなく、現場と利用者を同時に守れるかです。

実務上のチェックポイント

このようなケースでは、次の点を確認します。

  • Cさんの暴言や過剰要求の具体的内容
  • 発生日、発言者、対応者、通話時間、記録の有無
  • 現場ヘルパーが受けた心理的負担の程度
  • 若手ヘルパーが出勤を減らした理由
  • ベテランヘルパーが退職を示唆している具体的条件
  • Cさんから現場職員への直接連絡手段
  • LINE報告や写真送付の実態
  • 契約書・重要事項説明書の苦情対応条項
  • 契約解除に関する条項
  • サービス計画上、Cさんの要求が範囲内か範囲外か
  • Bさん本人の状態と支援継続の必要性
  • Bさん本人の意思確認ができるか
  • 地域包括支援センターが事情を把握しているか
  • 担当ケアマネの見解
  • 行政や保険者への相談履歴
  • SNSやGoogle口コミへの投稿状況
  • 社内のカスハラ対応ルールの有無
  • 電話対応記録のルール
  • 管理者やサービス提供責任者の負担状況
  • 代替サービスを確保できる可能性

特に大事なのは、現場職員に「一人で抱えなくていい」と明確に伝えることです。 これだけでも、職員の安心感は大きく変わります。

短期・中期・長期で考える

1週間以内にやること

まず、Cさんから現場ヘルパーへの直接連絡を止めます。 連絡窓口を管理者に一本化し、電話対応の記録を残します。

同時に、職員から被害状況を聞き取ります。 何を言われたのか。 どれくらい負担になっているのか。 今後その利用者宅に行けるのか。 ここを曖昧にしてはいけません。

また、地域包括支援センターと担当ケアマネに状況を共有します。 Bさん本人への支援を途切れさせない前提で、Cさんへの対応方針を相談します。

1か月以内にやること

Cさんに対して、今後の対応ルールを文書で示します。 契約範囲外の要求には応じられないこと。 暴言や長時間叱責が続く場合は、サービス提供体制の見直しや契約解除もあり得ること。 これを冷静に伝えます。

社内では、カスハラ対応フローを作ります。 現場で受け止めるのではなく、管理者に上げる。 記録する。 一定ラインを超えたら責任者が対応する。 この流れを決めます。

3か月以内にやること

契約書や重要事項説明書を見直します。 苦情対応、禁止行為、連絡方法、契約解除条項などを整理します。

また、職員向けの研修も必要です。 暴言を我慢することが良い介護ではない。 契約外の要求を断ることも、利用者本人と職員を守るために必要である。 その考え方を共有します。

私が最も重視すること

私がこのケースで最も重視するのは、 「職員保護」と「利用者本人の支援」を対立させないことです。

職員を守るために、すぐ利用者を切る。 利用者を守るために、職員に我慢させる。 どちらも長続きしません。

本当に必要なのは、問題行動をしている家族に対して線を引きながら、 利用者本人への支援はどう継続するかを考えることです。

そのためには、記録、窓口一本化、地域包括との共有、文書によるルール提示が必要です。

感情的に動くと、問題は大きくなります。 しかし、曖昧に我慢しても、問題はさらに大きくなります。

重要なのは、会社として守る線を決めることです。

まとめ

介護現場で利用者家族からの暴言や過剰要求が起きたとき、 「評判が怖いから我慢する」という対応は危険です。 それでは、職員が壊れてしまいます。

一方で、 「カスハラだから即時解除」 と感情的に動くことも危険です。 利用者本人の生活、地域包括との関係、代替支援、説明責任を考える必要があります。

私なら、まず現場職員への直接連絡を止め、管理者対応に一本化します。 そのうえで、暴言や過剰要求を記録し、職員保護ルールを整えます。 そして、地域包括とCさんに段階的に対応方針を伝えます。

この問題は、誰が悪いかを決めるだけでは解決しません。 重要なのは、職員を守りながら、利用者本人の支援をどう継続するかです。

私は、これが最初の一手だと考えます。

免責文

本記事は、中小企業および介護事業所の経営判断に関する一般的な考え方を整理したものです。 実際の対応は、契約書、重要事項説明書、サービス計画、職員の被害状況、利用者本人の状態、 地域包括支援センターや担当ケアマネとの関係、行政対応の有無などによって異なります。 個別事案については、事実関係を十分に確認したうえで判断する必要があります。

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