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建設業の追加工事、口頭指示で進めて大丈夫?未払いリスク回避のための初動対応と証拠保全策

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2026.07.20
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この記事の監修

社会保険労務士 行政書士 公認 不動産コンサルティングマスター

松原 元

平成23年12月に社会保険労務士登録、平成25年5月に行政書士登録し、ダブルライセンスで労務・社会保険関係から建設業、宅建業、産廃等の 許認可の取得・維持までをワンストップで対応可能。資金繰りのサポートも行っており、200件以上の融資支援実績を持つ。

建設現場では、工程を止められないという切迫した状況から、元請会社から追加工事を口頭で指示されるケースが少なくありません。「現場担当者から頼まれた」「チャットに『後で精算する』と残っている」「注文書は後から出すと言われた」――このような状況で、追加代金も当然支払われると考えて工事を進めてしまうと、後になって「当初契約に含まれている」「その金額では承認していない」「指示者には契約権限がない」といった主張によって、未払いやトラブルに発展するリスクがあります。

従業員30名までの中小・零細企業においては、専任の法務担当者がいないことが多く、経営者様ご自身が現場の状況把握から契約交渉までを担うことも珍しくありません。しかし、口頭指示された追加工事は、単なる書面不足の問題ではなく、契約の範囲、指示者の権限、費用、工期など、多岐にわたる複雑な問題を含んでいます。当事務所では、追加注文書を急いで作る前に、まずは事実関係の正確な把握と証拠保全を最優先すべきだと考えております。

この記事では、建設業における口頭指示の追加工事で未払いリスクを回避するための、中小企業の経営者様が取るべき具体的な初動対応と証拠保全のステップについて、社会保険労務士と行政書士の知見から解説いたします。書面がない状況でも、費用を最小限に抑えながら、少人数の体制でも実践可能な対策をご紹介しますので、ぜひご参考にしてください。

目次

追加工事の口頭指示が招くリスクと、中小企業が陥りがちな落とし穴

建設現場では、発注者側の設計変更や予期せぬ事態により、当初の計画から追加工事が必要となることが頻繁に発生します。工期の制約や現場の状況から、正式な書面を交わす前に口頭で指示され、工事がスタートすることも少なくありません。しかし、このような口頭指示による追加工事には、以下のようなリスクが潜んでいます。

  • 追加代金の未回収リスク: 口頭での合意は「言った、言わない」の水掛け論になりやすく、最終的に代金が支払われない可能性があります。
  • 工期延長に伴う費用負担: 追加工事によって当初の工期が延びた場合、それに伴う人件費や機械費用などの追加費用が回収できないかもしれません。
  • 責任の所在の不明確化: 何が当初契約範囲で、どこからが追加工事なのかが曖昧になり、トラブル発生時の責任の所在が不明確になります。
  • 二次下請への影響: 当事者間のトラブルが二次下請会社への支払い遅延やトラブルに波及する可能性もあります。

中小企業が陥りがちな「よくある失敗」

こうしたリスクを招く背景には、中小企業の経営者様が陥りがちな「よくある失敗」があります。

  1. チャットやメールの記録だけで代金も合意済みだと考える
    「追加分は後で精算する」といったチャットの記録は、追加工事の指示があったことや経緯を示す資料にはなります。しかし、この表現だけでは、具体的な金額、算定方法、支払時期までが確定しているとは限りません。金額について具体的に合意した明確な証拠がない限り、後に金額面で争いになる可能性が残ります。
  2. 工事を止めると工程に迷惑がかかるため、条件未確定のまま全て進める
    工程への配慮は建設業において非常に重要です。しかし、代金や工期といった肝心な条件が未確定のまま施工量を増やし続けると、未回収額や二次下請会社への支払負担が拡大する一方です。安全確保や現場保全のために必要な最低限の作業と、条件が未合意のままの追加施工は、明確に区分して対応を検討する必要があります。
  3. とりあえず相手の提示額で書面を作る
    元請会社から「追加工事は300万円程度でなければ承認できない」と提示された場合でも、その根拠を確認せずに暫定的にでも承認してしまうと、後に「300万円で合意した」と受け取られるおそれがあります。同様に、貴社が算出した見積額も、内訳を明確にし、根拠を説明できなければ、当然に確定額として認められるわけではありません。安易な合意は避けるべきです。
  4. 過去の日付に遡って変更契約書や注文書を作成する
    施工前に契約を締結した形を整えようと、口頭指示があった日に遡った日付で書面を作成することは避けるべきです。後から作成する場合は、現在の日付で、実際の指示日、施工開始日、既施工範囲、そして何が未合意事項であるかを正確に記録することが重要です。書面を整えることと、事実を異なる内容に作り変えることは全く異なります。事実と異なる書面は、かえって信用を失う原因にもなりかねません。

追加工事発生時の初動対応:最優先すべき「事実整理」の具体的なステップ

追加工事を口頭で指示された際に、まず最初に行うべきは、慌てて書面を作成することではありません。まずは「誰と誰の契約なのか」「当初契約に何が含まれていたのか」「誰がどの権限で指示したのか」「どこまで施工したのか」といった事実関係を正確に整理し、証拠を保全することです。これにより、後のトラブルを未然に防ぎ、貴社の正当な権利を守るための基盤を築きます。当事務所では、少人数の体制でも実行可能な、以下の具体的なステップをお勧めしています。

ステップ1:当初契約の範囲と追加指示内容の明確化

今回の追加工事が、本当に当初の契約範囲外であるかを確認することが第一歩です。

  • 当初契約書、注文書、請書、図面、仕様書の確認: 貴社が元請会社と締結した工事請負基本契約書、個別注文書、請書、および当初の図面や仕様書を改めて確認し、今回の別棟配管工事がこれらの契約内容に含まれているかどうかを整理します。
  • 追加指示された工事内容の具体化: 口頭で指示された追加工事(例:別棟までの配管工事)について、その位置、管の径、数量、使用材料など、具体的な内容をできる限り詳細に特定します。曖昧な指示のままで施工を進めないよう、不明点は元請会社に確認しましょう。

ステップ2:指示者の権限と合意形成の状況の確認

指示者の権限の確認は、後の代金回収において非常に重要な要素です。

  • 現場代理人の権限の確認: 現場代理人は、作業の順序や施工方法といった「施工上の指示」をする権限を持っていることが一般的です。しかし、数百万円規模の「追加工事の金額を確定する権限」や「会社を代表して契約変更を締結する権限」まで持っているとは限りません。元請会社の社内規定では、本社工事部長や購買部の承認が必要とされているケースも多く見られます。
  • 元請け内部の承認状況の確認: 可能な範囲で、元請会社内で追加工事に関する正式な決裁(承認)が下りているか、あるいは発注者から元請会社への設計変更指示が既に出ているかを確認することも重要です。この情報があれば、後の交渉を有利に進める材料となります。

ステップ3:施工状況の客観的な記録と証拠保全

書面がない状況でも、客観的な証拠を積み重ねることが貴社を守る鍵です。

  • 時系列での証拠資料の収集と保存: 現場代理人とのチャット履歴、メールのやり取り、工事日報、現場写真(日付入り)、施工図、資材発注書、納品書、貴社が作成した追加見積書などを、追加工事の指示があった時点から時系列で整理し、保存します。
  • 施工済み部分と未施工部分の明確な区分: 図面や数量表を用いて、既に施工を終えた部分と、これから施工する未施工部分を明確に区分します。これにより、未回収のリスクを具体的に把握し、今後の対応を検討する際の基礎とします。
  • 二次下請会社への対応: 貴社が手配した二次下請会社への追加発注についても、内容や代金を確定しないまま進めないことが重要です。正式な契約変更がなされるまでは、書面による発注は保留し、状況を共有しながら慎重に対応してください。

ステップ4:追加工事費用と工期への影響の算定・提示

具体的な数字を提示し、協議の材料とします。

  • 追加見積書の作成と原価内訳の明示: 今回の追加工事にかかる資材費、労務費、外注費などを正確に算出し、詳細な原価内訳を明記した追加見積書を作成します。元請会社から価格交渉があった際にも、根拠をもって説明できるように準備します。
  • 工期への具体的な影響の提示: 追加工事によって、当初の工程表からどれくらいの遅延が発生するのかを具体的に算出し、新しい工程表を提示します。工期延長に伴う費用(人件費、機械損料など)も算定し、併せて協議の材料とします。
  • 残工事の対応: 安全確保や、不可逆的な損害(例:未施工部分を放置することで既施工部分に影響が出るなど)を防ぐために必要な最低限の作業を除き、代金や工期が未合意のままの追加施工は一旦保留する方向で検討します。元請会社との交渉が長引く場合は、この判断が貴社のリスクを最小化します。

建設業法と国土交通省ガイドラインから見る契約書面化の重要性

建設工事の請負契約においては、建設業法により書面交付が義務付けられています。

建設業法 第十九条(建設工事の請負契約の内容)
建設工事の請負契約の当事者は、次に掲げる事項を記載した書面を作成し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
(中略)
六 設計変更又は工期の変更があつた場合における請負代金の額又は工期の変更方法その他の変更に関する事項
(後略)

e-Gov法令検索:建設業法

建設業法第19条は、工事内容、請負代金、着手・完成時期、そして「設計変更又は工期の変更があった場合の請負代金の額又は工期の変更方法その他の変更に関する事項」について、書面に記載することを求めています。つまり、当初契約だけでなく、その後の変更についても書面で明確にする必要がある、ということです。

また、国土交通省は「元請負人と下請負人間における建設業法令遵守ガイドライン」を公表しており、追加工事や変更工事について、原則として着工前に工事内容、代金、工期等を協議し、書面化するという考え方を示しています。このガイドラインは法律そのものではありませんが、建設業法上の問題となり得る取引や、元請・下請間で行うべき適切な対応を具体化した行政上の指針であり、実務を整理する上で非常に重要な参考資料となります。

書面作成の注意点:事実に基づいた正確な記録の重要性

本件のように、すでに追加代金について貴社と元請会社の間で金額の開きがある場合や、施工しなければ工程遅延として扱うという発言がある段階では、単純な書類不足ではなく、契約内容や代金をめぐる対立が顕在化し始めています。このような状況で書面を作成する際には、以下の点に特に注意が必要です。

  • 合意済み事項と未合意事項の明確な区分: 作成する書面には、双方で合意に至った事項(例:追加工事の範囲)と、現在協議中であり未合意の事項(例:追加工事の代金)を明確に分けて記載してください。
  • 一方的な金額の確定を避ける: 「追加工事代金は780万円で確定した」と一方的に記載するのではなく、「貴社見積額は780万円、元請会社提示額は300万円であり、現在協議中」といったように、実態を正確に整理して記載することが重要です。これにより、貴社が一方的に特定の金額に合意したと誤解されることを防ぎます。
  • 過去の日付に遡った作成は厳禁: 施工前に契約した形を整えるため、口頭指示日に遡った日付で書面を作成することは原則として避けるべきです。後から作成する場合は、現在の日付で、実際の指示日、施工開始日、既施工範囲、そして未合意事項を正確に記録するようにしてください。事実と異なる書面は、後に虚偽の証拠と見なされ、貴社の信用を著しく損ねる可能性があります。

書面があることと、その書面の内容が工事の実態や当事者間の合意状況を適切に整理していることは別の問題です。作成する書面は、あくまで事実の正確な記録であり、今後の交渉材料となるものとして位置づけるべきでしょう。

コストを抑えて解決へ導くための公的支援と専門家の活用

中小・零細企業の経営者様にとって、専門家への相談費用は大きな負担と感じられるかもしれません。しかし、問題が拡大する前に適切に対応することは、結果的にコストを最小限に抑えることにつながります。無料で利用できる公的支援や、当事務所のような専門家を効果的に活用することをお勧めします。

  • J-Net21(中小企業ビジネス支援サイト): 独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21では、経営課題に関する情報提供や、専門家による無料相談窓口が紹介されています。特に「経営課題解決」の分野で、法務に関する相談先を見つけることができるかもしれません。
    J-Net21 [中小企業ビジネス支援サイト]
  • よろず支援拠点: 全国に設置されている「よろず支援拠点」では、中小企業・小規模事業者向けの経営相談を無料で受け付けています。法務だけでなく、幅広い経営課題について相談が可能です。
    中小企業庁:よろず支援拠点
  • 都道府県の建設業相談窓口: 各都道府県庁の建設業担当部署では、建設業法に関する相談を受け付けている場合があります。管轄の行政庁のウェブサイトをご確認ください。
  • 法テラス(日本司法支援センター): 経済的に余裕がない方でも弁護士や司法書士に相談できる無料相談制度があります。条件によっては利用できる可能性があります。
  • 当事務所(社会保険労務士・行政書士): 私のような社会保険労務士・行政書士は、労務・人事だけでなく、許認可、契約、事業承継といった行政書士の専門領域も横断的に扱います。建設業許可の専門家として、契約書の確認や事実整理、交渉準備に関するアドバイスを提供し、トラブルを未然に防ぎ、貴社の負担を最小限に抑える支援が可能です。まずはお気軽にご相談ください。

これらの窓口を活用することで、初期費用を抑えつつ、適切なアドバイスを得ることができます。早期の相談が、問題の長期化やコスト増大を防ぐ最善策となります。

【Q&A】追加工事の口頭指示に関するよくある疑問

中小企業の経営者様からよくいただく、追加工事の口頭指示に関する疑問にお答えします。

Q1: チャットの記録があれば十分な証拠になりますか?

チャットやメールの記録は、追加工事の指示があったことや、その経緯を示す重要な証拠となり得ます。特に「費用は後で本社と調整する。まず職人を入れてください」といった具体的な文言が残っていれば、元請けが追加工事を認識し、貴社に施工を促した客観的な事実を示す強力な証拠となるでしょう。しかし、チャット記録だけでは「金額」「工期」「支払条件」まで具体的に合意したことの証明にはなりません。あくまで「指示があった」という事実を補強するものであり、金額交渉や契約条件の証明には、別途、見積書や協議記録、さらには書面による契約変更が理想的です。複数の証拠を組み合わせることが重要です。

Q2: 元請けが工事を止めると工程遅延になると言ってきたら、どう対応すべきですか?

元請けから工程遅延を理由に工事続行を迫られた場合でも、代金や工期が未確定のまま安易に全てを進めるのは避けるべきです。まずは、安全確保や現場保全のために不可欠な最低限の作業と、追加で発生する未合意の工事を区分します。その上で、「追加工事の代金と工期が未確定なため、これ以上の追加施工は一旦保留せざるを得ません」と明確に伝え、書面での合意形成を要求します。口頭だけでなく、メールやチャットでその旨を記録として残すことも重要です。工程遅延のリスクがあることは認識しつつも、貴社の正当な権利を守るため、条件交渉を優先してください。協議が難航する場合は、速やかに専門家にご相談ください。

Q3: 追加工事の代金が合意できない場合、施工を続けても良いですか?

追加工事の代金が合意できない状況で施工を続けることは、未払いリスクをさらに高める行為であり、原則として推奨されません。合意がないまま施工を続ければ、貴社が元請けの提示額を受け入れたと解釈される可能性もあります。未合意のまま施工を継続する場合は、その旨を明確に元請けに伝え、書面で確認をとるべきですが、それでもリスクは残ります。一般的に、工事を完全に停止することが、貴社に他の損害(例:元請けからの損害賠償請求)をもたらす可能性もあるため、状況に応じて慎重な判断が必要です。最終的には、専門家と相談し、法的・経済的リスクを総合的に評価した上で判断することをお勧めします。

Q4: 建設業法上の書面化義務を怠った場合、どのような罰則がありますか?

建設業法第19条に定められる書面交付義務に違反した場合、国土交通大臣または都道府県知事から、建設業者に対して業務改善命令(建設業法第28条第1項)が出されることがあります。これに従わない場合は、営業停止処分や許可の取り消しといった厳しい行政処分を受ける可能性があります。また、書面がないことで請負代金の未払いや工事内容をめぐるトラブルが生じた場合、法的な解決が困難になるなど、民事上の不利益も大きいです。罰則だけでなく、会社の信用失墜にもつながるため、書面による契約締結および変更は、常に意識して対応することが重要です。

まとめ

建設業における追加工事の口頭指示は、現場の緊急性から避けられない場面もありますが、その後の未払いやトラブルを防ぐためには、適切な初動対応が不可欠です。

最初に行うべきは、安易に注文書を急いで作成することではありません。まずは「誰と誰の契約なのか」「当初契約に何が含まれていたのか」「誰がどの権限で指示したのか」「どこまで施工したのか」といった事実関係を正確に整理し、チャット、メール、日報、写真、資材発注書などの客観的な証拠を保全することが最も重要です。

その上で、追加工事の図面、数量、見積内訳、工期への影響、支払条件を具体的に整理し、合意済み事項と未合意事項を明確に区別して書面を作成する準備を進めます。条件が決まらないまま施工を続ければ、追加代金の未回収だけでなく、工期遅延、二次下請会社への支払、現場保全など、複数の問題が同時に拡大するリスクがあります。

急いでいる時ほど、まずは書類を先に作るのではなく、事実、契約、証拠、権限、施工範囲を順番に確認し、着実にステップを踏むことが、貴社の利益を守るための最初の一手となります。もし対応に不安を感じる場合は、お一人で抱え込まず、当事務所のような専門家へお気軽にご相談ください。

本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

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