従業員の「副業が疑われる」時、中小企業が安易な懲戒を避けるべき理由と対応策
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この記事の監修
社会保険労務士 行政書士 公認 不動産コンサルティングマスター
松原 元
平成23年12月に社会保険労務士登録、平成25年5月に行政書士登録し、ダブルライセンスで労務・社会保険関係から建設業、宅建業、産廃等の 許認可の取得・維持までをワンストップで対応可能。資金繰りのサポートも行っており、200件以上の融資支援実績を持つ。
目次
従業員の副業が疑われる時、中小企業が直面する課題
「うちの従業員が、どうやら競合他社でも働いているらしい…」
「SNSでセミナー講師をしているのを見たが、副業届は出ていない」
従業員の副業に関するこのような情報が経営者の方や少人数の事務担当者のもとへ届くと、「就業規則違反だから、すぐにでも懲戒処分を検討したい」とお考えになるかもしれません。
しかし、従業員30名までの中小・零細企業様においては、専任の人事・法務担当者がいないケースがほとんどかと思います。このような状況で安易に懲戒処分を進めてしまうと、後々のトラブルに発展し、企業運営に大きな負担をかけるリスクがあります。
当事務所は、社会保険労務士と行政書士の専門家として、労務管理に関する中小企業の現実的な課題に日々寄り添っています。本記事では、従業員の副業が疑われる事態に直面した際に、経営者様が取るべき初動対応から、懲戒処分を検討する上での重要なチェックポイント、そして現実的な運用方法について解説いたします。まずは、事実確認と就業規則の確認を徹底し、法的リスクを最小限に抑えることが重要である、という点を結論としてお伝えします。
目次
- 従業員の副業が疑われる時、中小企業が直面する課題
- 「副業で懲戒」が難しい理由:本質は「事実と根拠」の不足
- 中小企業が陥りやすい「副業トラブル」の落とし穴
- 副業問題で当事務所が最初に行う「4つの整理」
- 具体的な「事実確認」の進め方と確認事項
- 就業規則は「曖昧さ」がトラブルの元:明確な基準の必要性
- 少人数の体制でも実践できる!副業ルール運用のチェックポイント
- 副業に関する法的根拠と注意点
- Q&A:中小企業経営者が疑問に思うこと
- まとめ:安易な懲戒を避け、適正なプロセスでリスクを最小化する
「副業で懲戒」が難しい理由:本質は「事実と根拠」の不足
従業員の副業に関する問題で、最も重要なのは「会社が懲戒処分を行えるだけの客観的な事実と合理的な根拠を持っているか」という点です。現時点では、従業員が副業をしているという「噂」や「SNSへの投稿」、あるいは「ブログ記事」といった情報しか手元にないかもしれません。
これらは確かに調査のきっかけにはなりますが、それ自体が直ちに就業規則違反や会社への利益相反行為を証明するものではありません。懲戒処分は従業員にとって重大な不利益を伴うため、会社側には厳格な証拠と判断基準が求められます。単なる情報収集の段階で懲戒を前提に動いてしまうと、誤った判断を下したり、かえって従業員との関係を悪化させたりするリスクがあるのです。
中小企業が陥りやすい「副業トラブル」の落とし穴
従業員の副業問題において、中小企業の経営者様や担当者様が陥りやすい典型的な失敗例をいくつかご紹介します。
SNS情報だけで結論を出す危険性
「SNSでセミナー講師をしている」という情報だけを見て、「副業をしている」と決めつけるのは危険です。無償での講演協力や、個人的な勉強会への参加、地域活動の一環であるなど、報酬が発生しない活動や会社業務に影響を与えない活動である可能性も十分に考えられます。
「届出なし=即懲戒」と考える誤解
就業規則に副業の届出義務が定められていたとしても、「届出がないから即懲戒だ」と判断することは、原則として避けるべきです。懲戒処分を行うためには、届出義務違反の事実だけでなく、就業規則の規定内容、その周知状況、これまでの会社としての運用実態、そして過去の同様のケースへの対応なども総合的に確認する必要があります。
噂を事実として扱うリスク
「〇〇らしい」「誰かが言っていた」といった不確かな情報や噂を、そのまま人事判断の根拠とすることはできません。懲戒処分を行うには、客観的な事実確認が不可欠です。
利益相反の確認不足
仮に従業員が副業を行っていたとしても、それが会社の業務に支障をきたさず、競業行為にも該当せず、会社の機密情報やノウハウを不正に利用している事実もないのであれば、会社がその副業を制限できる範囲は慎重に判断しなければなりません。会社としてどのような場合に利益相反と見なすのか、具体的な基準を持つことが重要です。
副業問題で当事務所が最初に行う「4つの整理」
当事務所にご相談いただいた場合、まず最初に行うのは「懲戒を前提とした調査」ではなく、「事実と未確認情報の区別」です。特に中小企業の限られたリソースで効率的に対応できるよう、次の4点を重点的に整理していきます。
事実確認の徹底
副業の有無、その内容、会社業務への影響、利益相反の可能性など、まずは客観的な情報を収集します。噂や推測に流されず、具体的な証拠に基づいた確認が不可欠です。
就業規則の内容確認と運用の実態把握
貴社の就業規則において、副業に関する規定がどのように定められているかを確認します。その上で、規定が従業員に適切に周知されているか、そして過去に同様のケースがあった場合にどのように運用されてきたか、という実態を把握することが重要です。
利益相反の具体的な検討
仮に副業が事実であったとして、それが貴社の事業と競合する可能性はないか、貴社の機密情報が利用されるリスクはないか、従業員の業務遂行に支障をきたすことはないかなど、具体的な利益相反の有無を検討します。
制度運用の公平性
特定の従業員に対してのみ厳しく対応していると受け取られないよう、これまでの副業に関する社内対応との整合性や、公平な制度運用がされているかを評価します。公平性の欠如は、後のトラブルの元となりかねません。
具体的な「事実確認」の進め方と確認事項
「副業が疑われる」という情報が入った際、まずは焦らず、本人からの聞き取りを含め、具体的な事実関係を整理することが重要です。当事務所では、初回ヒアリングで、少なくとも以下の事項を確認するようアドバイスしています。
- 副業の有無: 実際に副業を行っているのかどうか。
- 活動内容: 具体的にどのような活動をしているのか(例:セミナー講師、ブログ運営、コンサルティング、他社での勤務など)。
- 報酬の有無: その活動で報酬を得ているのか、またその金額はどの程度か。
- 契約先: どのような個人・法人と契約しているのか。
- 活動時間: 週にどの程度の時間を副業に費やしているのか、またそれは貴社の勤務時間外か。
- 届出をしていない理由: なぜ副業届を提出しなかったのか、その経緯や認識を確認します。
- 会社業務への影響: 貴社の業務に支障は出ていないか(疲労による集中力低下、遅刻・早退の増加など)。
- 会社設備の利用有無: 貴社のパソコンやネットワーク、備品などを副業に利用していないか。
- 機密情報利用の有無: 貴社の顧客情報、技術情報、ノウハウなどの機密情報を副業で利用していないか。
- 管理職への相談歴: 過去に副業に関して上長や担当者に相談したことはないか。
これらの情報を多角的に収集し、就業規則の規定と照らし合わせることで、初めて懲戒処分を検討するスタートラインに立つことができます。
就業規則は「曖昧さ」がトラブルの元:明確な基準の必要性
多くの企業様の就業規則には「副業は会社の許可または届出が必要」といった規定があるかと思います。しかし、中小企業においては、次の点が曖昧なまま運用されているケースが少なくありません。
- 「セミナー講師」は副業に該当するのか?
- 個人的な「技術ブログ運営」や「YouTube配信」は届出の対象となるのか?
- 雑誌への「原稿執筆」や「記事監修」は副業か?
これらの線引きが明確でないと、従業員はもちろん、経営者様や少人数の事務担当者も判断に迷ってしまいます。結果として、従業員が無自覚に規則違反をしたり、会社が不公平な対応をしてしまったりするリスクにつながります。
就業規則の規定だけでなく、具体例を挙げた運用基準やガイドラインまで整備することが、トラブルを未然に防ぎ、透明性の高い労務管理を行う上で望ましいと言えます。
少人数の体制でも実践できる!副業ルール運用のチェックポイント
従業員30名までの中小・零細企業様でも、現実的な工数で副業ルールを運用するためのチェックポイントを挙げます。まずはできる範囲から、段階的に整備を進めることをお勧めします。
副業の定義を具体的に定める
就業規則や別途定めるガイドラインで、どのような活動が「副業」に該当するのか、その定義を明確にしましょう。報酬の有無だけでなく、継続性、業務内容(会社の事業との関連性)、活動時間などを総合的に考慮する旨を記載します。
- 例:「本業以外の時間に行う、継続的または反復的な有償の活動で、会社業務に影響を与える可能性のあるもの」といった抽象的な定義に加え、具体例(例:他社での雇用、個人事業主としての受託業務、ブログ・YouTube運営による広告収入、株式投資や不動産投資で事業的規模に達するものなど)を例示することが有効です。
利益相反の判断基準の明確化
どのような場合に会社業務へ影響があると判断するのか、また、競業避止義務違反(会社と競合する事業を行うこと)や機密情報漏洩リスクがあるのか、その判断基準を明確に定めることが重要です。可能な範囲で、具体例を挙げて従業員に周知しましょう。
届出手続きを分かりやすくする
届出対象となる活動例を示すことで、従業員が「これは届出が必要か?」と迷うことを減らせます。届出様式も簡潔にし、提出先や承認フローも明確にすることで、従業員にとっても負担の少ない制度とすることが、少人数の体制でもスムーズな運用につながります。
担当者への周知と教育
経営者様ご自身や、労務管理を担当される少人数の事務担当者様が、「無届け=即懲戒」といった誤解を持たないよう、制度の趣旨や本記事で解説したような調査手順について、理解を深めることが不可欠です。必要に応じて、社労士などの専門家による研修や説明会を活用することも検討してください。
調査手順の明確化と記録
噂やSNS投稿だけで結論を出すのではなく、本記事で示したような本人への聞き取り、関係資料の確認、就業規則やガイドラインとの照合といった手順を徹底し、その過程を必ず記録に残しましょう。これは、万が一トラブルになった際の証拠となります。
副業に関する法的根拠と注意点
従業員の副業に関する問題では、主に労働契約法と労働基準法の規定を考慮する必要があります。
労働契約法による懲戒処分の原則
労働契約法第15条では、懲戒処分を行うためには「客観的に合理的な理由」が存在し、かつ「社会通念上相当」であると認められることが求められています。e-Gov法令検索:労働契約法
副業に関する問題においても、単に就業規則に違反しているというだけでなく、その副業が会社の業務に具体的な支障を与えているか、会社の信用を毀損しているか、あるいは競業避止義務や秘密保持義務に違反しているかなど、具体的な事実関係に基づいて慎重に判断しなければなりません。
労働基準法における就業規則の重要性
労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、就業規則の作成および行政官庁への届出を義務付けています。また、作成・変更した就業規則は、労働者への周知が義務付けられています(労働基準法第106条)。e-Gov法令検索:労働基準法
副業に関する制度を導入したり変更したりする場合には、就業規則にその内容を明確に記載し、全従業員に周知徹底することが不可欠です。また、他の服務規律との整合性も確認し、矛盾が生じないように注意する必要があります。
Q&A:中小企業経営者が疑問に思うこと
従業員の副業に関して、中小企業の経営者様からよくいただくご質問にお答えします。
Q1: 副業禁止規定は法的に有効ですか?
A1: 原則として、従業員は勤務時間外であれば自由に活動する権利を持っています。そのため、副業を全面的に禁止する規定は、会社の利益を不当に侵害しない限り、無効とされる可能性があります。会社が副業を制限できるのは、
①本業に支障が出る場合(過重労働による健康被害、遅刻・早退の増加など)
②会社の秘密情報を漏洩する恐れがある場合
③会社の名誉・信用を傷つける恐れがある場合
④競業避止義務に違反する場合(会社と競合する事業を行う場合)
などに限定されるのが一般的です。全面的に禁止するのではなく、届出制や許可制にして、上記の制限理由に該当するかどうかを判断基準とするのが現実的です。
Q2: 無届けの副業が発覚した場合、すぐに解雇できますか?
A2: 無届けの副業が発覚したからといって、すぐに解雇(懲戒解雇)することは、原則として困難です。解雇は従業員にとって最も重い処分であり、労働契約法第16条で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と厳しく制限されています。無届けという形式的な違反だけでなく、その副業によって会社に具体的にどのような損害や影響が生じたのかを証明する必要があります。まずは事実確認と本人への聞き取り、そして就業規則に則った指導・注意を行い、段階的に対応を進めることが重要です。
Q3: 専門家(社会保険労務士など)に相談するタイミングは?
A3: 「従業員の副業が疑われる」という情報が入った時点や、本人への聞き取り後にどう対応すべきか迷った時点で、早めに社会保険労務士にご相談いただくことをお勧めします。初期段階で専門家が介入することで、法的なリスクを回避しつつ、適切な事実確認や就業規則運用の助言を受けることができます。当事務所では、経営者様が抱える具体的な状況に合わせて、最適な対応策をご提案いたしますので、お気軽にご相談ください。
Q4: 無料で相談できる窓口はありますか?
A4: はい、いくつか無料の相談窓口があります。まずは、お近くの労働基準監督署や、各都道府県の労働局に設置されている総合労働相談コーナーにご相談いただくことが可能です。また、中小企業庁が運営するJ-Net21(中小企業ビジネス支援サイト)では、専門家派遣事業などで無料で相談できる機会もあります。これらの公的支援も活用しつつ、個別の具体的な状況に応じたアドバイスが必要な場合は、社会保険労務士事務所にご依頼いただくのが確実です。
まとめ:安易な懲戒を避け、適正なプロセスでリスクを最小化する
従業員の副業・兼業に関する問題は、安易に「届出がないから懲戒だ」と判断してしまうと、かえって大きな労務トラブルに発展するリスクをはらんでいます。
中小企業の経営者様や、労務管理をご担当される少人数の事務担当者様に求められるのは、噂や印象に流されず、
- 本当に副業なのか?
- 会社への具体的な利益相反や業務への支障はあるのか?
- 就業規則はどこまで明確に定めているのか?
- これまでの運用は公平か?
といった点を、客観的な事実に基づいて一つひとつ丁寧に確認していく姿勢です。
懲戒処分は、これら全ての事実確認と就業規則の確認、そして法的な検討を終えた後に初めて検討すべき最終手段です。まずは、貴社の実情に合わせた副業ルールの明確化と、適切な事実確認のプロセスを確立することから始めてみませんか。少人数の体制でも実践可能な、現実的かつ具体的な対応策について、当事務所がお手伝いいたしますので、お気軽にご相談ください。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。
総務の助っ人にご相談ください!
労務リスク、許認可状況、経営体制など、現状の課題を一緒に確認し、今後の方向性を整理いたします。
「総務の助っ人」として、経営者様の右腕となり長期的に伴走できる関係を築きたいと考えています。
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