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フリーランスからの追加報酬・ハラスメント主張:中小企業がトラブルを避ける初動対応と契約管理

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2026.08.09
  • 総務の助っ人
  • 総務の助っ人ラボ

この記事の監修

社会保険労務士 行政書士 公認 不動産コンサルティングマスター

松原 元

平成23年12月に社会保険労務士登録、平成25年5月に行政書士登録し、ダブルライセンスで労務・社会保険関係から建設業、宅建業、産廃等の 許認可の取得・維持までをワンストップで対応可能。資金繰りのサポートも行っており、200件以上の融資支援実績を持つ。

目次

フリーランスからの追加報酬・ハラスメント主張に中小企業経営者が取るべき初動対応

イベント業界や建設業など、フリーランス(個人事業主として企業から業務委託を受ける方々)の協力が不可欠な事業を営む中小企業の経営者の皆様、日々の業務、本当にお疲れ様でございます。

地域イベント、展示会、商業施設の催事、自治体案件、企業イベントなど、社内人員だけでは回らない現場も多く、信頼できるフリーランスの皆様に支えられている会社も少なくないのではないでしょうか。

「昔からの付き合いだから」「いつもお願いしているから」と、フリーランスとの関係性を信頼のみで継続してきた結果、ある日突然、追加報酬の請求、深夜作業や一方的な条件変更への不満、ハラスメントの主張、さらには労働者性の主張やSNSへの投稿示唆といったトラブルに発展するケースが後を絶ちません。

従業員30名までの多くの中小・零細企業様では、専任の人事部や法務部を持たず、経営者ご自身や少人数の事務担当者が、労務管理や契約業務を兼任されているのが実情かと存じます。そのため、こうしたトラブルが発生した際に「どう対応すれば良いのかわからない」「現場を止めずに解決したいが、コストや工数をかけすぎたくない」と頭を悩ませる経営者様も少なくありません。

当事務所では、このような問題の本質は、フリーランス側の過剰請求や感情論だけにあるのではなく、「会社側が外部人材に頼りながらも、発注条件や現場での責任範囲を曖昧にしてきたこと」にあると考えています。本記事では、フリーランスからの追加報酬やハラスメント主張に直面した中小企業の経営者様が、コストと工数を最小限に抑えつつ、現場を止めずに問題を解決するための具体的な初動対応と、再発防止に向けた契約管理のポイントを解説いたします。

目次

まずはここから!フリーランスとのトラブルにおける初動対応の結論

フリーランスの現場ディレクターなど外部人材から、追加報酬やハラスメントを主張された場合、中小企業の経営者様がまず行うべきことは、感情的に反応せず、以下の2点に集中することです。

  1. 過去案件の実態を徹底的に整理し、支払うべき可能性のある追加報酬を客観的に試算する。
  2. 感情的な対立を避けつつ、当該フリーランスに依存しない代替体制を迅速に検討・構築する。

この2つの対応を最初に行うことで、問題の悪化を防ぎ、冷静な交渉の土台を築き、現場業務への影響を最小限に抑えることが可能になります。

中小企業によくあるご相談事例と問題の本質

曖昧な関係性から生じるトラブル

当事務所に寄せられるご相談の多くは、従業員30名までの中小・零細企業様からです。特にイベント業界や建設業など、フリーランスや業務委託の外部人材との協業が多い業種で、同様の課題に直面されるケースが散見されます。

典型的なケースとしては、長年、特定のフリーランスにイベント当日の進行管理、設営スタッフへの指示、撤去確認、顧客対応の一部といった重要な役割を依頼してきた会社があります。

経営者としては「外部の人というより、うちの準社員のような存在」と考えていたかもしれません。フリーランス側も会社の打ち上げや忘年会に参加し、若手社員からも頼られる存在だったとします。

しかし、ある大型イベントをきっかけに関係が悪化するケースがあります。

  • 当初の契約条件と異なる日数・時間拘束(例えば深夜作業の発生)
  • 直前の仕様変更による作業負担の増加
  • これらに対する追加報酬の請求に対し、会社側が「今回は利益が薄い」「次の案件で調整する」「いつもお願いしているから何とか頼む」などと曖昧な回答を繰り返す
  • 現場責任者からの「外注なんだから文句を言うな」「代わりはいくらでもいる」といった発言がハラスメントだと受け取られる

結果として、フリーランスから会社に対し、追加報酬の請求、直前変更や深夜作業の常態化への不満、発注書がないこと、実態として会社の指揮命令を受けていたこと(労働者性の主張)、特定の言動による精神的負担(ハラスメントの主張)、慰謝料請求、さらにはSNS投稿や関係機関への相談の可能性など、長文のメールや書面が届く事態に至ります。

確認すると、契約書は数年前の簡易な業務委託基本契約のみで、個別案件ごとの発注書はほとんどなく、LINEや電話で依頼し、月末にフリーランスから請求書を出してもらう運用だった、という状況は珍しくありません。

  • 日当なのか、案件単位なのか。
  • 深夜対応は別料金なのか。
  • 追加拘束が発生した場合どうするのか。
  • 顧客都合の仕様変更は誰が負担するのか。

こうした具体的な条件が曖昧なまま、信頼関係の上に成り立っていた関係性が、トラブルによって一気に崩壊してしまうのです。

この問題の本質は「会社側の曖昧な管理体制」にある

当事務所は、この問題の本質を「フリーランスが業務委託か労働者か」という形式論だけではないと考えています。もちろん、法的には重要な論点です。

具体的には、契約書に「業務委託」と書かれていても、実態として会社の指揮命令を受け、時間や場所に強く拘束され、代替性もなく、労務提供の対価として報酬を受けているような場合、「労働者性」が争われる可能性があります(労働基準法等に定める労働者であるかどうかの判断)。

また、フリーランスに業務を委託する場合でも、取引条件の明示、報酬支払、ハラスメント対策なども重要であり、近年施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:フリーランス保護新法)」(経済産業省 中小企業庁)も、中小企業に新たな対応を求めています。

しかし、経営判断として見ると、さらに大きな問題は、会社が特定のフリーランスに過度に依存していたことです。

来月には自治体主催の大規模イベントがある、売上見込みも粗利も大きい、といった状況で、もしそのフリーランスが抜けてしまうと、現場管理がかなり不安定になるでしょう。現場事故や進行ミスが起きれば、次年度以降の自治体案件にも影響しかねません。つまり、会社はフリーランスに強く依存しながらも、条件を明確にしていなかったことが、このトラブルの根にあります。

  • 「外注だから自己責任」と言いながら、実際には現場の重要部分を任せている。
  • 「仲間のような存在」と言いながら、追加報酬や深夜対応は曖昧にする。
  • 「準社員のような存在」と言いながら、契約管理は業務委託扱いにしている。

この矛盾が、今回のトラブルを深刻化させているのです。

トラブル時に中小企業が陥りがちな「よくある失敗」

このようなケースで、中小企業の経営者様が陥りがちな失敗は、主に二つの極端な対応です。

感情的に突き放すことの危険性

一つ目の失敗は、感情的に相手を突き放すことです。

  • 「あなたは業務委託です。労働者ではありません。」
  • 「追加請求には応じません。」
  • 「SNSに書いたら法的措置を取ります。」

このような返答をしたくなるお気持ちは痛いほど理解できます。フリーランスの主張の中には、会社から見て納得できない部分もあるでしょうし、慰謝料請求やSNS投稿を示唆されれば、社長としても身構えるのは当然です。

しかし、発注書がない、追加作業の条件が曖昧、深夜作業が発生している、現場責任者からの強い発言があった――このような状況で「業務委託だから関係ない」と押し切るのは極めて危険です。感情的な対立は、話し合いを困難にし、事態をさらに悪化させるだけでなく、SNSでの拡散や行政機関への相談、さらには訴訟リスクを高めることにもつながります。

主張を全て丸呑みすることの危険性

もう一つの失敗は、逆にフリーランスの主張をすべて丸呑みしてしまうことです。

  • 「SNSに書かれたくない。」
  • 「重要な自治体案件を回したいから戻ってきてほしい。」

このような思いから、追加報酬も慰謝料も一気に支払ってしまうケースも散見されます。

これもまた危険な対応です。何に対する支払いなのかが曖昧なままだと、その支払いが他のフリーランスや登録スタッフにも波及し、「強く言えば追加で払ってもらえる」という前例を作りかねません。結果として、企業のコストを不用意に増加させ、不公平感を招き、将来的な関係性にも悪影響を及ぼす可能性があります。

大切なのは、払うか争うかを急ぐことではありません。まずは、冷静に事実を整理し、客観的な状況を把握することから始めるべきです。

当事務所が考える、中小企業の最善な初動対応

当事務所が中小企業の経営者様におすすめする最善の初動対応は、以下の二つのステップです。感情的に否定することなく、客観的な視点で状況を把握し、冷静かつ現実的な解決策を模索することが重要です。

過去案件の実態を整理し、追加報酬の可能性を試算する

まずは、フリーランスの主張を感情的に否定せず、過去案件の実態を徹底的に整理します。具体的には、以下の項目について確認し、記録をまとめることから始めます。

  • 当初の依頼内容: 口頭、メール、LINEなど、どのような方法で、どのような条件で依頼したのか。報酬額、作業日数、作業時間、業務内容の範囲は明確だったか。
  • 実際の拘束状況: フリーランスの主張する拘束日数、深夜作業の回数と時間、前日準備の有無などを、会社の記録(メール、スケジュール、現場報告書など)と照合します。
  • 直前変更・追加業務: 商業施設側など顧客からの変更指示はいつ発生したのか。その変更によってフリーランスに追加で任せた業務内容は何か。誰が指示し、どのように伝えたのか。
  • 報酬に関するやり取り: 追加報酬についてどのような会話があったか。「次の案件で調整する」といった言質があった場合、それが実際に調整されたのかどうか。
  • 専務の発言内容: ハラスメントを主張されている現場責任者の発言について、本人の記憶だけでなく、客観的な状況証拠(若手社員や他のスタッフの証言など)もあれば確認します。

これらの事実を整理した上で、当初の契約内容と実際の業務との乖離を特定し、もし会社が支払うべき可能性のある追加報酬があるならば、その金額を客観的に試算します。この段階では「払うべきではない」と決めつけるのではなく、「もし払うとすれば、いくらが妥当か」という視点で検討することが重要です。

感情的対立を避け、代替体制を構築する

同時に、来月予定されている自治体案件など、フリーランスに依存しない代替体制を迅速に構築する準備を進めます。

  • 「フリーランスが戻ってくれるかもしれない」
  • 「フリーランスが分かってくれるだろう」
  • 「あのフリーランスがいないと現場が回らない」

このような希望的観測で動くのは危険です。最悪のシナリオも想定し、現場を止めないための具体的な対策を講じる必要があります。

  • 代替人材の検討: 別の現場ディレクター、社内管理者、あるいは他の登録スタッフで現場を回せる体制を検討します。緊急時のための新たな外部人材のリストアップや、既存スタッフへのスキルアップ・役割分担の調整も視野に入れます。
  • 現場責任者への指示: 現場責任者(専務など)には、当該フリーランスや他の外部スタッフへの感情的な接触を一時的に控えさせるべきです。問題がさらに悪化するような発言は、状況をより複雑にするだけです。
  • 冷静な協議の準備: フリーランスが戻る場合でも、戻らない場合でも、感情的な対立を避けて冷静に協議できるよう準備します。協議の場では、整理した事実に基づいて話し合いを進めることが重要です。

この二つのステップを踏むことで、会社は感情論に流されず、事実に基づいた対応が可能になり、同時に事業継続のリスクヘッジも行えるため、より有利な立場で問題解決に臨むことができます。

このフリーランスとのトラブルには、確かに多くの法律上の論点が含まれています。

  • フリーランスとの取引条件の明示義務(フリーランス保護新法)
  • 報酬支払の適正性
  • ハラスメント(パワーハラスメント対策義務:労働施策総合推進法第30条の2)
  • 業務委託と労働者性の境界
  • 未払い賃金(労働基準法第24条)
  • 損害賠償請求(民法第709条)
  • SNS投稿による名誉毀損(民法第709条、刑法第230条)

これらは当然確認すべき重要な点です。しかし、法律論だけで考えると、「フリーランスは労働者か?」「追加報酬を支払う義務があるか?」「SNS投稿を止められるか?」といった個別の法的判断に偏りがちです。

もちろん、これらの法的判断は重要ですが、中小企業の経営上の問題はそれだけでは解決できません。経営者様が真に考えるべきは、以下のような視点も含む、より広範な問題解決です。

  • 来月の重要案件を安全に回せるのか?
  • 他のフリーランスや登録スタッフが離れていかないか?
  • 若手社員が現場責任者に対し不信感を持っていないか?
  • 今後も口頭発注で現場を回し続けるのか?
  • 会社の信用は守られるか?

重要なのは、誰が法律的に正しいかという一点を争うことではありません。現場を止めず、会社の信用を守り、外部人材との良好な関係を再構築し、将来的なリスクを低減できるかという、経営全体を見据えた視点での解決策を探ることです。

少人数体制でもできる!実務上のチェックポイント

トラブル発生時、少人数の体制でも実践できる具体的なチェックポイントを挙げます。これらの情報を整理することで、経営者様ご自身が状況を把握し、専門家へ相談する際にもスムーズに進められます。

  • フリーランスとの基本契約書の内容: いつ締結し、どのような内容だったか。更新はされているか。
  • 個別発注書の有無: 各案件ごとに具体的な業務内容、期間、報酬、追加料金の条件を記載した発注書はあったか。なければ、過去のメールやLINEのやり取りで条件が確認できるか。
  • 今回の問題となった案件の当初条件と報酬の内訳: 口頭、メール、LINE等で提示された内容を再確認。18万円の報酬には何が含まれていたのか。
  • 当初予定していた拘束日数と実際の拘束日数: シフト表、スケジュール、日報、メール、LINEなどを確認し、客観的な事実を整理。
  • 深夜作業の回数と時間: 深夜作業が発生した日時と、その具体的な内容を整理。
  • 直前変更の内容と指示者: 誰が、いつ、どのような内容の変更を指示したのか。変更によって増えた業務内容は何か。
  • 顧客対応の委託範囲: フリーランスにどこまで顧客対応を任せていたのか。会社の指揮命令下で行っていたか、判断を任せていたか。
  • 追加報酬について話した内容とその記録: 「次の案件で調整する」といった具体的なやり取りがあった場合、その記録(メール、LINE、議事録など)を確認。調整が行われた形跡はあるか。
  • フリーランス側の請求額とその根拠: フリーランスから提示された請求内容の詳細を把握。
  • 慰謝料請求の理由と専務の発言内容: 具体的にどのような言動がハラスメントと受け取られたのか。当時の状況を整理し、客観的な証言がないか確認。
  • 来月の重要案件でフリーランスが担う予定だった役割と代替案: 業務内容、必要なスキル、代替可能な人材(社内・外部)をリストアップ。
  • 他のフリーランスへの発注方法と報酬条件: 他のフリーランスとの契約管理はどのように行っているか。今回の件が波及する可能性も考慮。
  • 深夜作業や追加拘束に関する社内基準: 社内で明確なルールがあるか。なければこれを機に検討する。
  • SNS投稿された場合に公開される可能性のある事実: 会社にとって不都合な事実が何であるかを洗い出す。
  • フリーランス対応ルールの有無: 業務委託契約に関するガイドラインやルールが社内にあるか。

特に重要なのは、案件ごとの発注条件の明確化です。「いつもの感じでお願いします」「現場を見て調整してください」「あとで請求書をください」といった口頭での運用は、信頼関係があるうちは回りますが、関係が悪化した瞬間に、会社側の最大の弱点となります。少人数体制であっても、簡易な発注書や確認書を導入するだけで、リスクは大きく軽減できます。

短期・中期・長期で考える具体的な対応ステップ

中小企業の経営者様が、コストを抑えつつ、かつ現実的に実行可能な対応ステップを、時間軸に沿ってご提案します。

【1週間以内】緊急対応・事実整理・代替案検討

この期間は、緊急事態への対応と、今後の交渉の土台作りに徹します。

  1. フリーランスとの接触制限: 問題となっているフリーランスとの直接的な接触を一時的に控えさせ、連絡窓口を一本化します。経営者ご自身が対応するか、信頼できる少人数の担当者を置きます。感情的な言動が問題悪化を招くため、特に現場責任者(専務など)には感情的な発言を控えるよう指示します。
  2. 過去案件の徹底整理: 前述の「実務上のチェックポイント」に基づき、今回の問題となった案件、および過去半年から1年程度の関連案件について、以下の情報を集中的に整理します。
    • 当初の発注条件(口頭、メール、LINE等)
    • 実際の拘束日数、深夜作業の有無と時間
    • 追加変更の内容とその指示者
    • これまでに支払った報酬額と、追加報酬に関するやり取り

    これらの情報をもとに、会社が支払うべき可能性のある追加報酬を客観的に試算します。

  3. 重要案件の代替体制検討: 来月控えている自治体案件などの重要業務について、当該フリーランスが関与しなかった場合の代替体制を検討します。他のフリーランスへの依頼、既存社員でのカバー、簡易な新人採用・派遣活用なども含め、実行可能なプランを複数検討します。
  4. 専門家への無料相談活用: 顧問弁護士や顧問社労士がいる場合は速やかに相談します。顧問がいない場合は、商工会議所、よろず支援拠点、労働基準監督署、各自治体の無料法律相談窓口などを活用し、初期段階でのアドバイスを得ることを検討してください。当事務所のような、労務と許認可・契約の両方に精通した専門家への相談も有効です。まずは無料相談で状況を整理し、対応方針のヒントを得ることがコストを抑える第一歩です。

【1か月以内】交渉・合意形成・契約書フォーマット整備

事実整理と代替案の準備ができたら、フリーランスとの具体的な交渉に入ります。

  1. フリーランスとの協議: 整理した事実に基づいて、フリーランスと冷静に協議を行います。一方的に会社の主張を押し付けるのではなく、フリーランス側の主張にも耳を傾け、どこに認識のずれがあったのかを共有する姿勢が重要です。試算した追加報酬について、必要であれば具体的な根拠を示して提案します。
  2. 合意書の作成: 追加報酬の支払い、今後の取引関係、今回の件に関する秘密保持、SNS投稿を控える旨など、協議で合意できた内容を書面にまとめます。これは、後のトラブル再発を防ぐための重要なステップです。書面は、当事務所のような専門家に確認してもらうことで、より確実なものになります。
  3. 個別発注書フォーマットの作成・運用開始: 今後の業務委託契約のために、案件ごとの個別発注書フォーマットを作成し、運用を開始します。記載すべき項目は、業務内容、期間、報酬額、支払い条件、深夜作業や追加業務発生時の追加報酬基準、損害賠償、秘密保持などです。簡易なテンプレートでも構いませんので、口頭ではなく書面でのやり取りを徹底します。これにより、将来的な「言った・言わない」のトラブルを大幅に減らせます。

【3か月以内】体制の見直しと再発防止策

今回の問題を個別のトラブルとして終わらせず、会社全体の運営体制を見直す機会と捉えます。

  1. 外部人材への依存度見直し: 特定のフリーランス一人に依存しすぎないよう、複数の外部人材との関係構築や、社内でのスキル移転・人材育成を進めます。緊急時に代替可能な人材を常に確保しておく体制を目指します。
  2. 業務委託と雇用の線引きの明確化: 業務委託契約の実態が「労働者性」に傾かないよう、発注内容や現場での指揮命令のあり方を見直します。業務の遂行方法や時間管理について、フリーランスの裁量権を尊重する運用を徹底します。
  3. 現場責任者への教育・研修: 現場責任者(専務を含む)に対し、ハラスメントに関する正しい知識や、フリーランスを含む外部人材への適切なコミュニケーション・対応方法についての研修を実施します。社労士が提供するハラスメント研修などを活用することで、再発防止だけでなく、組織全体のコンプライアンス意識向上にもつながります。
  4. フリーランスとの取引ルール整備: 業務委託に関する社内ガイドラインやマニュアルを整備します。発注から報酬支払い、トラブル発生時の対応フローなどを明確にすることで、担当者が変わっても一貫した対応が可能になります。

これらのステップは、中小企業にとって一時的な負担となるかもしれませんが、将来的なトラブルリスクと経営資源の損失を考えれば、結果的にコストを抑え、安定した事業運営を実現するための投資であると言えます。

Q&A:フリーランスとのトラブルに関するよくある疑問

Q1: 業務委託契約を結んでいても、労働者性が認められることはありますか?

はい、原則としてあります。契約書のタイトルが「業務委託契約」であっても、その実態が労働者と判断されるケースは存在します。労働者性の判断は、個別のケースに応じて、以下の要素などを総合的に考慮して行われます。

  • 指揮監督下の労働か: 会社からの具体的な業務指示や時間・場所の拘束があるか。
  • 専属性: 会社への専属度が高いか、他の仕事が自由にできるか。
  • 報酬の性質: 労働時間に対して支払われる賃金的性格が強いか、成果物に対する報酬か。
  • その他: 会社が提供する設備や機材を使用しているか、代替性がなく、会社の事業に不可欠な存在であるか、など。

もし労働者性が認められた場合、当該フリーランスは労働基準法上の労働者として扱われ、未払い残業代や有給休暇の付与、社会保険への加入などが問題となる可能性があります。

Q2: ハラスメントを主張された場合、会社はどう対応すべきですか?

ハラスメントを主張された場合、まずは冷静に事実確認を行うことが最重要です。

  1. 事実確認: どのような言動があったのか、いつ、どこで、誰が、どのように感じたのかを、関係者(当事者双方、目撃者など)からヒアリングします。メールやLINEなどの記録も確認します。この際、客観的な情報収集に努め、感情的に否定しないことが肝要です。
  2. 適切な対処: 事実が確認できた場合、ハラスメント行為を行ったとされる者に対し、必要に応じて注意・指導を行います。ハラスメント防止のための社内規定があれば、それに則って対応します。
  3. 再発防止: 今後の再発防止策として、ハラスメント研修の実施、相談窓口の周知、言動に関する注意喚起などを行います。フリーランスに対しても、ハラスメントに関する会社の基本方針を明確に伝えることが望ましいでしょう。

なお、2020年6月1日より、大企業だけでなく中小企業においても、職場におけるパワーハラスメント防止のために必要な措置を講じることが義務化されています(労働施策総合推進法第30条の2)。これは従業員だけでなく、フリーランスを含む外部人材への対応にも関連する可能性がありますので、注意が必要です。

Q3: SNSに投稿されることを防ぐにはどうしたら良いですか?

SNSへの投稿示唆は、会社にとって大きな信用リスクとなりますが、感情的な対立や脅しで抑え込もうとすることは避けるべきです。

  1. 誠実な対応: 最も重要なのは、会社がフリーランスの主張に対し、誠実かつ客観的に向き合う姿勢を示すことです。事実整理を行い、必要であれば追加報酬の支払いや、今後の関係性改善に向けた具体的な提案を行うことで、フリーランス側の不満を軽減し、SNS投稿という手段を選ばざるを得ない状況を変えることが期待できます。
  2. 合意書の活用: 協議の結果、金銭的な解決や今後の取引継続などで合意に至った場合、その合意書の中に「本件に関する秘密保持義務」や「誹謗中傷にあたる情報発信を行わない」旨の条項を盛り込むことが考えられます。ただし、これは法的な拘束力を持つものの、感情的な対立が解消されていない場合は、完全に防ぐことは難しいケースもあります。
  3. 専門家への相談: もし既にSNS投稿が行われてしまった場合や、その兆候が強い場合は、速やかに弁護士などの専門家に相談し、法的な対応(投稿削除請求、名誉毀損による損害賠償請求など)を検討することになります。ただし、訴訟には時間とコストがかかるため、まずは関係修復による解決を目指すのが現実的です。

まとめ

フリーランスの現場ディレクターや外部人材から、追加報酬、労働者性、ハラスメント、SNS投稿といった主張が寄せられたとき、中小企業の経営者様が戸惑うのは当然です。

これまで共に現場を支え、仕事も継続的に依頼してきた相手から、突然請求や批判を受けたように感じ、「なぜ今さら?」という気持ちになるかもしれません。しかし、このような問題は感情的に動くと、かえって状況を悪化させてしまいます。

「業務委託だから関係ない」と感情的に突き放すことも、逆に「SNSに書かれたくないから全部払う」ことも、どちらも危険な対応です。

中小企業の経営者様がまず行うべきことは、以下の2点です。

  1. 過去案件の実態を徹底的に整理し、支払うべき可能性のある追加報酬を客観的に試算する。
  2. 感情的な対立を避けつつ、当該フリーランスに依存しない代替体制を迅速に検討・構築する。

この2つを最初に行うことで、冷静な交渉の土台を築き、現場業務への影響を最小限に抑えることが可能になります。

重要なのは、フリーランスに「勝つ」ことではありません。現場を止めず、外部人材との信頼関係を守り、会社の契約管理体制を立て直すことこそが、中小企業の持続的な成長には不可欠です。

当事務所では、労務と契約法務の両面から、中小企業の皆様が直面するこのような課題に対し、現実的かつコストを抑えた解決策をご提案しております。お困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。

本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

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