主治医の「就労可能」診断書で復職は大丈夫?中小企業が安全配慮義務を果たすための復職判定の進め方
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この記事の監修
社会保険労務士 行政書士 公認 不動産コンサルティングマスター
松原 元
平成23年12月に社会保険労務士登録、平成25年5月に行政書士登録し、ダブルライセンスで労務・社会保険関係から建設業、宅建業、産廃等の 許認可の取得・維持までをワンストップで対応可能。資金繰りのサポートも行っており、200件以上の融資支援実績を持つ。
目次
はじめに
従業員のメンタルヘルス不調による休職は、経営者様にとって非常にデリケートな問題です。特に、主治医から「就労可能」との診断書が提出された際、すぐに復職を認めるべきか、慎重に判断すべきか、悩まれる方も少なくないのではないでしょうか。
「診断書があるのだから復職を認めるべきではないか。」
「しかし、現場ではまだ不安だという声も聞かれる。」
このように、会社の中で意見が分かれることも一般的です。
今回は、従業員30名までの中小・零細企業において、メンタルヘルス不調からの復職を希望するケースで、経営者様や少人数の事務担当者様がどのような順序で判断すべきか、そして、安全配慮義務を適切に果たすための具体的な進め方について、社会保険労務士と行政書士の両資格を持つ専門家としての視点から解説いたします。
【結論先出し】診断書だけでは不十分。会社には「安全配慮義務」があります
結論から申し上げますと、主治医の「就労可能」という診断書のみをもって、直ちに復職を認めるのは慎重な判断が必要です。
その理由は、会社には従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」(労働契約法第5条)があるためです。労働契約法第5条では、以下のように定められています。
労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
主治医の診断書は重要な情報源ですが、必ずしも会社の業務内容や職場環境の特性、さらには会社の安全配慮義務を十分に考慮した上での判断とは限りません。
したがって、会社は診断書の内容に加え、従業員の状態、業務内容、職場環境などを総合的に評価し、段階的な復職や配置転換なども含めた多角的な視点から、安全かつ適切な復職計画を検討することが重要となります。
目次
- はじめに
- 【結論先出し】診断書だけでは不十分。会社には「安全配慮義務」があります
- 相談事例:運送会社ドライバーの復職希望
- この問題の本質:合理的な復職判定プロセスを踏んでいますか?
- 中小企業で陥りがちな復職判定の失敗
- 私ならこう整理する:中小企業における復職判定の具体的な5ステップ
- 就業規則だけでは危険?復職制度の運用が重要な理由
- 実務上のチェックポイント:少人数体制でもできること
- Q&A:よくある疑問にお答えします
- まとめ
相談事例:運送会社ドライバーの復職希望
運送会社で勤務するドライバーDは、メンタルヘルス不調により3か月間休職していました。
休職中は毎月、主治医の診断書を提出していましたが、今回、「就労可能」と記載された診断書が提出され、本人は来週からの復職を希望しています。
一方、営業所長は、「まだ運転業務を任せるのは心配だ。」として復職に反対しています。
就業規則には休職制度は定められているものの、復職判定の具体的な基準や手順は明文化されていません。
人事担当者としては、主治医の診断書だけで判断すべきか、それとも現場の意見を優先すべきか、難しい判断を迫られています。
この問題の本質:合理的な復職判定プロセスを踏んでいますか?
この問題の本質は、主治医の「就労可能」という診断書があるかどうか、だけではありません。本当に重要なのは、会社として**労働契約法第5条に定められる安全配慮義務を適切に果たしながら、合理的な復職判定プロセスを踏んでいるか**という点です。
主治医の診断書は、従業員の心身の状態を把握するための重要な客観的資料です。しかし、主治医は治療の専門家であり、会社の具体的な業務内容や職場環境、そして業務に伴う安全上のリスクまでを詳細に把握しているとは限りません。特に運送業のドライバーのように、高い注意力や集中力が求められ、万が一の不調が重大な事故につながりかねない業務では、一層慎重な判断が求められます。
また、管理職が「不安だから」という主観的な理由だけで復職を認めないことも、不当な復職拒否とみなされ、トラブルの原因となる可能性があります。会社は、本人の回復状況、具体的な業務内容、安全配慮の必要性を総合的に確認した上で、客観的かつ合理的な判断を行う義務があるのです。
中小企業で陥りがちな復職判定の失敗
中小・零細企業においては、専任の人事担当者がいない場合も多く、復職判定で以下のような失敗に陥りがちです。
1. 診断書だけで安易に復職を認めてしまう
「就労可能」と記載されていても、主治医は「日常生活が可能である」という判断をしているケースや、「事務作業なら可能」といった条件付きの「就労可能」である可能性もあります。具体的な業務内容(例えば、長時間の運転業務、顧客対応、残業の有無など)を考慮せずに復職させると、以下のようなリスクが考えられます。
- 従業員の体調が再度悪化し、症状が再発する。
- 業務中の不注意や判断ミスにより、事故やトラブルが発生する(特に運送業では重大なリスクです)。
- 他の従業員の業務負担が増加したり、職場全体の士気に悪影響を及ぼしたりする。
2. 管理職の主観的な不安だけで復職を拒否する
現場の意見は重要ですが、「まだ心配だから」「何かあったら困る」といった客観的な根拠に乏しい理由だけで復職を拒否することは、不当な復職拒否とみなされる可能性があります。
復職拒否には、従業員が労務を提供できる状態にないことを示す客観的な証拠が必要です。単なる印象や感情による判断は避けるべきです。
3. 本人との面談を十分に行わない
診断書だけでは、本人の現在の具体的な体調、職場への不安、通院・服薬状況、復職後の希望や配慮事項など、細かな事情までは把握できません。会社が一方的に判断するのではなく、本人と十分に話し合い、現在の状態や復職への意欲を確認することが重要です。
4. 復職判定基準が曖昧なまま運用する
復職判定に関する明確なルールや手順がなければ、担当者や管理職によって判断が異なり、公平性を欠くことになります。これは、従業員からの不信感につながるだけでなく、会社全体の信頼性や制度運用への影響も避けられません。
私ならこう整理する:中小企業における復職判定の具体的な5ステップ
当事務所では、復職判定においては、以下の5つのステップで進めることを推奨しています。少人数の体制でも対応しやすいよう、実務的な視点で整理しました。
ステップ1:主治医の診断書内容の確認と情報収集
主治医から提出された診断書の内容を精査します。
- 「就労可能」の具体的な条件を確認する
「軽作業なら可能」「短時間勤務なら可能」「残業は不可」など、具体的な制限事項や条件が記載されているかを確認します。 - 診断書だけでは不明な点を明確にする
診断書の内容が抽象的で、会社の業務に照らして判断が難しい場合は、本人から具体的な症状や、どのような業務なら可能なのか、といった情報を詳しく聴取します。
必要に応じて、本人の同意を得た上で、会社から主治医へ情報提供を依頼することも検討します。例えば、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」1では、会社から主治医への情報提供書(様式例)が提示されています。
ステップ2:本人との面談を通じた状況確認
従業員本人とじっくり面談を行い、現在の状況を多角的に把握します。
- 現在の症状と回復状況
どのような症状があり、どの程度改善されたのか。日常生活への影響はどうか。 - 通院・服薬状況
現在も通院・服薬を継続しているか。服薬による業務への影響(眠気など)はないか。 - 睡眠や生活リズム
規則正しい生活を送れているか。十分な睡眠が取れているか。 - 復職への意欲と不安
復職を希望する理由、復職後の働き方への希望、仕事内容や人間関係への不安など。 - 具体的な業務への適応状況
今回の相談事例のように運転業務がある場合、運転への適応状況や自信の有無などを具体的に確認します。 - 会社への配慮希望
短時間勤務や配置転換、業務内容の変更など、復職後に会社に希望する配慮事項を聴取します。
ステップ3:業務内容と職場環境の評価
従業員が復職後に従事する予定の業務内容と職場環境を改めて評価します。
- 従事予定の業務内容と業務量
休職前の業務と同等に遂行できるか。業務遂行に求められる集中力、判断力、体力、ストレス耐性などを確認します。 - 時間外労働の有無
残業が日常的に発生する部署か。現時点での残業への対応可否。 - 業務におけるストレス要因
復職後にストレスとなる可能性のある業務内容や人間関係がないか。 - 安全性が求められる業務のリスク評価
運送業の運転業務のように、従業員の健康状態が事故に直結する可能性のある業務の場合、具体的なリスク要因(長距離運転、夜間運転、緊急対応など)を洗い出し、復職が安全に可能か評価します。
ステップ4:専門家の意見聴取と活用
客観的かつ専門的な意見を取り入れることは、適切な復職判定において非常に重要です。
- 産業医がいる場合
産業医に主治医の診断書の内容を確認してもらい、本人との面談を実施した上で、業務遂行能力や就労上の配慮事項、復職の可否に関する意見を聴取します。産業医の意見は、会社の安全配慮義務を果たす上で極めて重要な判断材料となります。 - 産業医がいない中小企業の場合
従業員30名未満の事業場では産業医の選任義務はありません。しかし、専門家の意見を取り入れることはリスク管理上も望ましいです。- 地域産業保健センターの活用:全国の都道府県に設置されており、従業員50人未満の事業場の事業者やそこで働く従業員を対象に、産業保健に関する無料の相談や専門家による指導を行っています。メンタルヘルス不調者の復職支援についても相談が可能です。2
- 顧問社会保険労務士への相談:当事務所のような社会保険労務士に相談することで、復職判定プロセスの進め方や、適切な医療機関・専門機関の紹介など、具体的なアドバイスを得ることができます。
- 精神保健福祉センターの活用:各都道府県や政令指定都市に設置されており、心の健康に関する相談に応じています。
ステップ5:総合的な判断と復職支援計画の策定
これまでのステップで収集した情報を総合的に評価し、復職の可否と復職支援計画を策定します。
- 復職の可否の判断
主治医の診断書、本人の状態、業務内容、職場環境、専門家の意見を総合的に判断し、従業員が安全かつ健康に業務を遂行できる状態にあるか、会社として適切な配慮ができるかを見極めます。 - 段階的な復職や配置転換の検討
「復職させるか、させないか」の二択ではなく、安全に働ける方法を検討する視点が重要です。例えば、以下のような選択肢を検討します。- 試し勤務(リハビリ出勤):短時間勤務から始め、徐々に勤務時間や業務量を増やしていく。
- 配置転換:休職前の業務が負担になる場合、一時的または恒久的に業務内容や部署を変更する。
- 業務内容の軽減・調整:ストレス要因となる業務や責任の重い業務を一時的に軽減する。
- 復職後のフォローアップ体制の構築
復職後も定期的な面談を実施し、従業員の状態を継続的に把握します。必要に応じて、業務内容や勤務時間の再調整を検討する体制を整えます。
就業規則だけでは危険?復職制度の運用が重要な理由
休職制度は、労働基準法に直接的な規定はありませんが、会社の制度として就業規則に定めることで効力を持ちます。
しかし、就業規則に休職制度が定められていても、復職判定の具体的な手順や基準、面談の方法、必要書類、専門家の関与の有無、試し勤務の実施可否などが明文化されていないケースは少なくありません。
このような状態では、担当者や管理職によって判断が異なったり、現場との認識のずれが生じたりする可能性があり、公平性を欠く対応につながりかねません。最悪の場合、不適切な復職拒否として、従業員との紛争に発展するリスクも考えられます。
復職制度は、就業規則に定めるだけでなく、復職判定のフローチャートや面談マニュアルなどを整備し、会社全体で共通の理解と手順で運用することが望まれます。
実務上のチェックポイント:少人数体制でもできること
従業員30名までの中小・零細企業で、少人数の体制で人事・労務業務を兼任されている経営者様や事務担当者様でも、以下の点をチェックし、できることから少しずつでも整備を進めることが、リスク軽減につながります。
- 復職判定の手順を文書化する
簡単なフローチャートやチェックリストを作成し、誰が担当しても同じ手順で進められるようにします。これにより、属人化を防ぎ、判断の公平性を保ちやすくなります。 - 面談記録を残す
従業員本人との面談、主治医への情報提供依頼、専門家からの意見聴取など、復職判定に関わる全てのやり取りや決定事項を文書で記録・保管します。これは、後日トラブルになった際の重要な証拠となります。 - 公的機関や専門家を積極的に活用する
産業医がいない場合でも、地域産業保健センターなど無料で利用できる公的機関や、顧問社会保険労務士といった専門家を積極的に活用し、専門的な知見を取り入れることで、より客観的で合理的な判断が可能になります。 - 段階的復職や配置転換の選択肢を用意する
一足飛びの復職が難しい場合に備え、短時間勤務や業務内容の変更、配置転換といった選択肢を検討できるよう準備しておくと良いでしょう。これにより、従業員の復職のハードルを下げ、再発防止にもつながります。 - 復職後も継続的にフォローする
復職して終わりではなく、定期的な面談や状況確認を通じて、従業員の状態を継続的に把握します。必要に応じて、勤務内容や勤務時間の再調整を検討できる体制を整えることが大切です。 - 管理職への周知と教育
現場の管理職や責任者に対して、復職制度の趣旨と、主観的な判断ではなく客観的な根拠に基づいた対応の重要性を周知・教育する機会を設けることで、会社全体で復職支援への理解を深めることができます。
Q&A:よくある疑問にお答えします
Q1: 産業医がいない場合、専門家の意見はどのように得れば良いですか?
A: 従業員30名未満の事業場の場合、産業医の選任義務はありませんが、専門家の意見を取り入れることは、適切な復職判定とリスク管理の観点から非常に重要です。
最も手軽でコストを抑えられる方法としては、地域産業保健センターの活用が挙げられます。従業員50人未満の事業場を対象に、産業保健に関する無料の相談や専門家による指導を行っており、メンタルヘルス不調者の復職支援についても相談が可能です。また、当事務所のような顧問社会保険労務士に相談し、適切な医療機関や専門機関を紹介してもらうこともできます。
Q2: 復職を拒否した場合、法的なリスクはありますか?
A: はい、合理的な理由なく復職を拒否すると、法的なリスクを負う可能性があります。従業員は、休職期間が満了し、労務提供可能な状態になったにもかかわらず、会社が正当な理由なく復職を認めない場合、解雇権濫用や安全配慮義務違反とみなされ、損害賠償請求や未払い賃金請求などの法的トラブルに発展する可能性があります。
会社が復職を認めない場合は、主治医の診断書の内容、本人との面談結果、産業医等の専門家の意見、具体的な業務内容への適応状況など、客観的かつ合理的な理由を明確にし、書面で通知することが重要です。
Q3: 試し勤務や段階的復職は必ず実施しなければなりませんか?
A: 法的に会社に義務付けられているわけではありません。しかし、従業員の円滑な職場復帰と再発防止の観点から、非常に有効な手段とされています。
休職期間が長く、すぐに元の業務に戻ることが難しい場合や、業務内容が精神的・肉体的に負担が大きい場合などには、主治医の意見や本人の希望も踏まえ、慎重に検討することをおすすめします。試し勤務や段階的復職を導入することで、従業員の負担を軽減し、安定した復帰を促すとともに、会社側も従業員の業務遂行能力や回復状況を段階的に評価する機会を得ることができます。
まとめ
主治医の「就労可能」診断書は、復職を検討する上で重要な一歩ではありますが、それだけで全てが決まるわけではありません。中小企業の経営者様が、従業員の安全と会社の安定した経営を守るためには、**主治医の診断書、本人の状態、業務内容、職場環境、そして会社の安全配慮義務(労働契約法第5条)**を総合的に考慮した上で、慎重かつ合理的な復職判定を行うことが不可欠です。
今回の記事でご紹介した5つのステップや実務上のチェックポイントを参考に、まずは「どこから着手できるか」を検討してみてはいかがでしょうか。明確な制度と適切な運用は、会社にとっても従業員にとっても納得感のある復職支援につながり、結果として企業の成長を支えることにもつながると考えられます。
当事務所では、休職・復職に関する就業規則の整備や、具体的な復職判定プロセスの構築についてのご相談も承っております。お気軽にお問い合わせください。
出典:
- 厚生労働省: 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
- 厚生労働省: 地域産業保健センター
- e-Gov法令検索: 労働契約法
本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。
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労務リスク、許認可状況、経営体制など、現状の課題を一緒に確認し、今後の方向性を整理いたします。
「総務の助っ人」として、経営者様の右腕となり長期的に伴走できる関係を築きたいと考えています。
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